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I Don't Stand a Ghost of a Chance With You

  • 作曲: YOUNG VICTOR POPULAR
#洋楽ポップス#スタンダードジャズ
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I Don't Stand a Ghost of a Chance With You - 楽譜サンプル

I Don't Stand a Ghost of a Chance With You|楽曲の特徴と歴史

基本情報

I Don't Stand a Ghost of a Chance With Youは、1932年に発表されたスロー・バラード。作曲はVictor Young、作詞はNed WashingtonとBing Crosbyで、Crosby自身の歌唱で広く知られるようになった。流麗なメロディと洗練された和声が評価され、アメリカン・ソングブックを代表する一曲としてジャズ・スタンダードに定着。ヴォーカル曲だが、インストゥルメンタルでも頻繁に取り上げられる。曲名が示す通り、叶わぬ恋心を静かに見つめる内容で、内省的なムードが大きな魅力となっている。

音楽的特徴と演奏スタイル

形式は32小節のAABAが一般的。旋律は息の長いフレーズで構成され、前半で甘美な上昇線を描き、Bセクションで緊張と解放を巧みに作る。和声はセカンダリー・ドミナントや半音階進行、サブドミナント・マイナーの用法が要所に現れ、リハーモナイズの余地が大きい。演奏面ではイントロをルバートで始め、後半で4ビートに乗せる手法が定番。ブラシを用いた繊細なドラム、柔らかなガット・ギターやピアノのブロックコード、あるいはストリングスのパッドが相性良い。ヴォーカルは言葉の間合いとブレスのコントロールが聴きどころ。

歴史的背景

1930年代初頭はラジオとレコード産業が拡大し、ティン・パン・アレー由来の歌が全米に浸透した時期。映画や放送の分野で活躍したVictor Youngは、情感豊かな旋律とオーケストレーションで注目を集め、本曲もその美点が色濃く表れている。Bing Crosbyの滑らかなクローナー・スタイルが楽曲の普及を後押しし、やがてジャズ・ミュージシャンが取り上げることで、クラブやダンスホールを超えた“演奏され続ける歌”へと昇華した。出版譜やアレンジ版の流通もスタンダード化に寄与した。

有名な演奏・録音

基準点となるのはBing Crosbyの初期録音。ジャズではCharlie Parker with Stringsの抒情的な解釈が名高く、オーケストレーションと即興の共存を高次元で示した。ヴォーカルではBillie HolidayやFrank Sinatraが深い陰影を与え、言葉の推進力と音価の伸縮で楽曲の寂寥感を際立たせている。ギタリストやピアニストによるインスト版も多く、テンポを極端に落とすバラード処理から、ミディアムでのスウィング解釈まで幅広い。映画での具体的使用は情報不明。

現代における評価と影響

本曲はリアルブックや多くのスタンダード集に収録され、ジャズ教育現場でもバラード表現の教材として扱われることが多い。若手は音程管理とレガート、語尾のニュアンスを学ぶ題材として、熟練者は和声の置換やサブスティテュートで表現幅を広げる練習曲として重宝する。セッションでは終盤のクールダウンに選ばれやすく、ヴォーカリストと管・弦楽器奏者が同じ土俵で音楽的会話を交わせるレパートリーとして定着している。

まとめ

I Don't Stand a Ghost of a Chance With Youは、切ない恋情を洗練された旋律と和声で描く名曲。1932年の誕生以来、ヴォーカル、インスト双方で磨かれ続け、現在も演奏現場と録音の双方で生命力を保っている。静けさの中に深い情感を宿す、永遠のジャズ・スタンダードである。