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I Got It Bad and That Ain't Good
- 作曲: ELLINGTON DUKE,WEBSTER PAUL FRANCIS

I Got It Bad and That Ain't Good - 楽譜サンプル
I Got It Bad and That Ain't Good|楽曲の特徴と歴史
基本情報
I Got It Bad and That Ain't Good は、作曲デューク・エリントン、作詞ポール・フランシス・ウェブスターによるバラード。1941年のレビュー「Jump for Joy」で初披露され、同年にエリントン楽団と歌手アイヴィー・アンダーソンによる録音で広く知られるようになった。以後、ヴォーカルとインストゥルメンタルの双方で演奏される定番曲となり、ジャズ・スタンダードとして確固たる地位を築いている。
音楽的特徴と演奏スタイル
本曲はスロー~ミディアム・スローのテンポで演奏されることが多い濃厚なジャズ・バラード。ブルース由来のメロディ・ターンと半音階的な内声進行が溶け合い、豊かな拡張和声が切なさを強調する。歌唱ではルバートを交えたフレージングやダイナミクスの陰影が要で、終止にかけてのため息のような落ち着きが印象的。インストではテナーやアルトのバラード・フィーチャーとして愛され、ロングトーンの歌心とサブトーンのコントロールが聴きどころとなる。ピアノやギターのソロでも内声の滑らかな連結とテンション・ボイシングが映える。
歴史的背景
1941年の「Jump for Joy」は、当時の黒人表象に挑む意欲的なレビューとして知られ、エリントンの社会的関心と芸術性が結び付いた企画だった。その中で本曲は、哀愁と気品を併せ持つバラードとして観客の心をつかみ、楽団のレパートリーの中核へと成長。戦時下にもかかわらずラジオやレコードで広く浸透し、エリントンの作曲家としての多面性と、バンドの表現力の高さを示す代表作の一つとなった。
有名な演奏・録音
基準点となるのは1941年、デューク・エリントン楽団とアイヴィー・アンダーソンの名唱。以後、エラ・フィッツジェラルドが「Ella Fitzgerald Sings the Duke Ellington Song Book」で取り上げ、ヴォーカル解釈の範を示した。サックスではベン・ウェブスターやジョニー・ホッジスら、エリントン一門を中心に多くの名手がバラード・フィーチャーとして録音。エリントン自身の後年のライヴや再録でも定期的に取り上げられ、そのたびに異なる編曲とテンポ感で楽曲の懐の深さが示されている。
現代における評価と影響
本曲はジャズ・クラブやコンサートでの定番バラードとして今も高頻度で演奏され、ヴォーカリストの表現力やサックス奏者の音色美を示す格好の楽曲として重宝される。教育現場でもバラード解釈やハーモニー運用の教材として取り上げられ、録音・配信プラットフォームでも多彩な解釈が更新され続けている。時代や編成を超えて歌心を伝える、エリントン作品の粋を示す一曲と言える。
まとめ
I Got It Bad and That Ain't Good は、1941年の誕生以来、歌と器楽の両輪で磨かれてきたジャズ・バラードの金字塔。ブルースの語法と洗練された和声語彙が融合し、演奏者の解釈次第で多彩な感情を映し出す。原点の名演に触れつつ、世代を超えた録音を聴き比べることで、本曲の普遍性とエリントンの作曲美学がより鮮明に立ち上がるはずだ。