白鳥 サン・サーンス
- 作曲: SAINT SAENS CAMILLE CHARLES

白鳥 サン・サーンス - 楽譜サンプル
白鳥 サン・サーンス|作品の特徴と歴史
基本情報
『白鳥(Le Cygne)』は、フランスの作曲家カミーユ・サン=サーンスが1886年に書いた組曲『動物の謝肉祭』の第13曲。原曲はチェロ独奏と2台ピアノのために作曲され、その後ピアノ伴奏版やオーケストラ版など多くの編曲が生まれた。演奏時間はおよそ3分前後。流麗な旋律と静謐な情感で広く愛され、同組曲の中で最も有名なナンバーとして知られる。サン=サーンスが生前、公的な上演を許した唯一の楽曲でもある。
音楽的特徴と表現
水面のさざ波を思わせる分散和音の伴奏に、チェロがレガートで長い旋律線を歌う構図が核。過度なテンポの揺らぎや装飾を控え、息の長いフレージングで音をつなぐ解釈が一般的だ。音価の保ち方や弓圧の微調整、細やかなダイナミクスの起伏が表情を左右する。終結部に向けて音量を絞り、余韻を残すことで白鳥の優雅な軌跡を視覚的に想起させる効果が生まれる。編成により、ハープやピアノの煌めきが水面の光を描写する点も聴きどころ。
歴史的背景
『動物の謝肉祭』は私的な催しのために作曲され、ユーモアと風刺を含む性格からサン=サーンスは生前の公的上演を控えた。一方で『白鳥』のみは例外的に出版・演奏が認められ、独立曲として早期から人気を博す。簡潔な形式に洗練された旋律美を湛え、サロンからコンサートホールまで幅広い場で受容されることで、作曲者の代表的抒情小品として地位を確立した。
使用された映画・舞台(該当時)
1905年、振付家ミハイル・フォーキンがアンナ・パヴロワのために本作を用いた小品バレエ『瀕死の白鳥』を創作。パヴロワの象徴的レパートリーとなり、以後世界のバレエ公演で再演が重ねられた。舞台上での身振りと音楽の抒情が密接に結びついた例としてしばしば言及される。映像作品やテレビ番組でも引用は多いが、個別タイトルの網羅は情報不明。
現代における評価と影響
今日ではチェロの定番アンコール曲としてリサイタルやコンクール、教育現場で頻繁に取り上げられる。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、サクソフォン、ハープなど多様な楽器への編曲が普及し、学校合奏でも親しまれる存在だ。シンプルな素材の中に、音色設計・息の長い歌い回し・微細なダイナミクス管理が求められるため、技術と音楽性を磨く教材としての価値も高い。録音は多数に及び、解釈の幅広さがレパートリーとしての生命力を物語っている。
まとめ
『白鳥』は、静謐な水面と優雅な軌跡を連想させる音の描写を通じ、サン=サーンスの洗練とフランス的エレガンスを結晶化した小品である。短い時間に豊かな抒情と余韻を凝縮し、舞台芸術とも結びついて普遍的な魅力を獲得した。初心者から愛好家まで幅広い聴き手に開かれ、時代を超えて演奏され続ける古典的名作といえる。