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It Don't Mean A Thing
- 作曲: ELLINGTON DUKE

It Don't Mean A Thing - 楽譜サンプル
It Don't Mean A Thing|楽曲の特徴と歴史
基本情報
デューク・エリントン作曲のIt Don't Mean a Thing(副題:If It Ain't Got That Swing)は、1931年作。作詞はアーヴィング・ミルズ。1932年にエリントン楽団が歌手アイヴィー・アンダーソンを迎えて初録音し、以後ジャズを代表するスタンダードとなった。タイトルが掲げるとおり“スウィングの感覚こそ要”という理念を明快に示し、ビッグバンドから小編成まで、声楽・器楽を問わず幅広く演奏され続けている。
音楽的特徴と演奏スタイル
躍動する4ビートの推進力、明快なリフ、セクション間のコール&レスポンスが核。ヴォーカル版ではスキャットや擬声の反復が効果的に用いられ、ソロ・インプロヴィゼーションの呼び水となる。テンポは中速からアップまで広く、ブラスのシャウト、ブレイク、ストップタイムを活かしたアレンジに映える。和声語法は過度に複雑ではなく、演奏の肝はタイムの粘りとアクセント配置、そしてスウィングする8分音符の扱いに置かれる。
歴史的背景
本作は「スウィング」という言葉を一般に浸透させた曲として知られ、スウィング時代到来の象徴となった。エリントンは当時、ハーレムのコットン・クラブで独自のサウンドを研ぎ澄まし、本曲は大恐慌期のアメリカでダンス音楽としても支持を獲得。ラジオ放送やダンスホールでの普及を通じて、ジャズが大衆文化の中心へと進む重要な一歩を刻んだ。エリントン自身の作編曲美学とバンドの個性的な音色が、作品の説得力を決定づけた。
有名な演奏・録音
出発点はデューク・エリントン楽団+アイヴィー・アンダーソン(1932)の名演。エラ・フィッツジェラルドは『エリントン・ソングブック』(1957)などで取り上げ、躍動感あるスキャットで決定版を示した。さらに、ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリ率いるホット・クラブも軽快なスウィングで魅力を引き出している。以降、無数のジャズ歌手、コンボ、スクール・ジャズ、プロのビッグバンドまで、時代と地域を越えたリファレンス曲として定着した。
現代における評価と影響
今日ではセッション定番かつ教育現場の教材曲として、スウィング・フィールの体得に最適なレパートリーと評価される。歌と器楽の双方で成立する柔軟性は、編成やスキルレベルを問わず取り組みやすい利点をもつ。クラシック寄りのクロスオーバーや映画・舞台音楽の文脈でも頻繁に引用され、ジャズのリズム美学を象徴する“入り口”としての役割を担い続けている。
まとめ
It Don't Mean a Thingは、シンプルな素材にスウィングの核心を凝縮した永遠のスタンダードである。まずはエリントンのオリジナルとエラの名唱を聴き比べ、リズムの弾力とコール&レスポンスの妙を体感してほしい。そこからテンポや編成を変え、自分の解釈でスウィングの感覚を磨くことが、この曲をもっとも深く味わう近道となる。