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眠りの森の美女
- 作曲: TCHAIKOVSKY PYOTR ILYICH

眠りの森の美女 - 楽譜サンプル
眠りの森の美女|作品の特徴と歴史
基本情報
チャイコフスキーのバレエ《眠りの森の美女》(Op.66)は、シャルル・ペローの童話に基づく全3幕+プロローグの大作。1890年、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演され、振付はマリウス・プティパ、台本はイワン・フセヴォロジスキーとプティパが担当。純粋な管弦楽作品で、歌詞や声楽は含まれない。壮麗な舞台性と緻密な音楽構造を併せ持ち、古典バレエの礎をなす代表作として知られる。
音楽的特徴と表現
音楽は厳格な舞踊形式と交響的展開の融合が特徴。序奏に現れる呪いの動機、プロローグの妖精ヴァリエーション、第一幕のガーランド・ワルツ、オーロラ姫のローズ・アダージョ、第三幕のグラン・パ・ド・ドゥなど、舞台の動きを支える明瞭な主題と色彩的な管弦楽法が光る。弦の厚みと木管の細やかな対話、華やかな金管のファンファーレが場面の性格を鮮やかに描き分け、典雅さと劇的推進力を両立している。
歴史的背景
《白鳥の湖》の経験を踏まえ、チャイコフスキーはプティパの詳細な場面設計に対応する番号付き楽曲を精緻に作曲。19世紀ロシア宮廷文化の雅趣とフランス古典趣味を取り入れ、物語性と舞踊性の高度な両立を実現した。初演は大規模編成と贅沢な装置で話題を呼び、上演を重ねる中で全幕の完成度が評価を高め、のちの《くるみ割り人形》へ続くバレエ音楽の頂点形成に寄与した。
使用された映画・舞台(該当時)
本作は世界の主要バレエ団(マリインスキー、ボリショイ、ロイヤル・バレエ、パリ・オペラ座など)の定番演目として継続上演。映画ではディズニー『眠れる森の美女』(1959)で第一幕のガーランド・ワルツが“Once Upon a Dream”として編曲・使用され、旋律が広く親しまれた。全幕上演に加え、コンサート用の組曲やハイライトも定着し、舞台外でも楽曲が独自の生命を持って流通している。
現代における評価と影響
今日、《眠りの森の美女》は古典バレエの到達点と称され、オーロラ役は技巧と表現力の試金石とされる。音楽面でもドラマトゥルギーと舞踊性の理想的な均衡が評価され、全幕録音や抜粋の名演が多数存在。ワルツやアダージョはコンサート、映像作品、広告などで頻繁に引用され、クラシック入門層にも届く普遍的なメロディの力を示している。
まとめ
厳密な舞踊構成と豊穣な管弦楽を兼ね備えた《眠りの森の美女》は、物語の魔法性を音で可視化する名品。初演以来の舞台的魅力に交響的な聴きごたえが加わり、時代や地域を超えて愛される。バレエ鑑賞の指針としても、純粋に音楽としても楽しめる、チャイコフスキーの成熟を映す金字塔である。