アーティスト情報なし
スラブ行進曲
- 作曲: TCHAIKOVSKY PYOTR ILYICH

スラブ行進曲 - 楽譜サンプル
スラブ行進曲|作品の特徴と歴史
基本情報
チャイコフスキーが1876年に作曲した管弦楽曲。原題はフランス語で「Marche slave(スラブ行進曲)」、作品番号はOp.31。慈善演奏会のために書かれた独立のコンサート・ピースで、雄渾な行進と哀感に満ちた旋律が特色。通常はオーケストラで演奏される。比較的コンパクトながら、劇的な対比と高揚感を備え、演奏会でも親しまれている。
音楽的特徴と表現
陰鬱な序奏から行進主題へと展開し、金管と打楽器が推進力を担う。セルビアの民謡を素材とし、終盤ではロシア国歌「神よツァーリを守り給え」の旋律が高らかに現れる構成が象徴的。短調の緊張と長調の凱歌が対照をなし、ダイナミクスの急峻なコントラストとクレッシェンドがカタルシスを生む。木管の哀感、弦のうねり、金管のファンファーレが有機的に結びつき、行進曲という枠を超えたドラマを形成している。
歴史的背景
当時のロシア世論はセルビア=トルコ戦争で苦境にあったスラブ系諸民族を支援しており、ロシア音楽協会は救援募金のための慈善演奏会を企画。作曲依頼を受けたチャイコフスキーは短期間で本作を完成させた。初演は1876年、モスクワにてニコライ・ルビンシテインの指揮で行われ、時勢に呼応した愛国的作品として注目を集めた。民謡引用と国歌旋律の採用は、同時代の社会的関心に応答した明確なメッセージ性を帯びている。
使用された映画・舞台(該当時)
本作は舞台附随音楽や映画音楽として書かれたものではなく、慈善演奏会のための独立作品として発表された。当時は映画が存在せず、同時代の映像作品での使用は当然ながらない。後年、映像や舞台での引用・使用例はあるが、特定の作品名・上演情報は情報不明。コンサート・レパートリーとしての演奏史が中心である。
現代における評価と影響
今日でもコンサートの定番として演奏され、愛国的行進曲の代表例として親しまれている。明快な構成と強靭なオーケストレーションは入門者にも訴求力が高く、同作曲者の「序曲1812年」と並置されるプログラムもしばしば見られる。オーケストラだけでなく編曲版(吹奏楽など)も広く流布し、教育現場やアマチュア団体でも取り上げられることがある。録音も多数に上り、解釈の幅の広さが評価されている。
まとめ
スラブ行進曲は、歴史的状況に根差した素材と、チャイコフスキー特有の劇的対比が結実した一篇である。民謡引用と国歌旋律の力学が、暗から明へと収斂する構図を強く印象づける。短時間で核心に迫る名品として、コンサートの要所や聴き比べに適し、同時代作品を理解する手がかりとしても重要な位置を占めている。