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アヴェ ・ マリア シューベルト

  • 作曲: SCHUBERT FRANZ (KLASSIKER)
#クラシック
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アヴェ ・ マリア シューベルト - 楽譜サンプル

アヴェ ・ マリア シューベルト|作品の特徴と歴史

基本情報

フランツ・シューベルトが1825年に作曲した歌曲集Op.52の一曲(D.839)。原題は「エレンの歌 第3番(Ellens Gesang III)」で、ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人』をアダム・シュトルクが独語訳した詩に付曲された。今日よく知られるラテン語祈祷文の“Ave Maria”は後世に広く重ねられた歌詞で、作曲当初のテクストとは異なる。基本形は独唱とピアノだが、声種や楽器編成の版がきわめて多く、宗教儀式や式典でも頻繁に演奏される。調性は演奏者の声域に応じた移調版が流通している。

音楽的特徴と表現

静かな分散和音のピアノ伴奏に乗せて、滑らかな旋律が祈りのように進む。前奏で提示されるアルペッジョの動機が全曲を貫く支柱となり、旋律は小さなクレッシェンドとディミヌエンドを繰り返しながら頂点で穏やかに解決する。和声は素直だが、短調の陰影や属七の緊張を溜めてから弛める呼吸感が感情のうねりを形作る。テンポはゆったりとしたアンダンテ系が通例で、言葉のアクセントとレガートを重視したフレージングが要。移調や移植が容易で、ソプラノからバス、ヴァイオリンやチェロ、ギター独奏、合唱編成まで幅広いアレンジで演奏されても、静謐で敬虔な雰囲気は損なわれない。

歴史的背景

この曲は、スコット原作の物語に登場するエレンが聖母に救いを求めて歌う場面に由来する。出版は1826年(Op.52)で、シューベルトが同物語から採った「エレンの歌」連作の掉尾を飾った。標題冒頭の“Ave Maria”という呼びかけが独り歩きし、やがてカトリックの祈祷文(ラテン語)を歌詞にした版が爆発的に流通。結果として宗教曲と誤解されがちだが、原形は世俗歌曲であるリートである。19世紀末から20世紀にかけ、結婚式や追悼の場での定番として定着し、編曲と録音の蓄積が普及をさらに押し広げた。

使用された映画・舞台(該当時)

映画ではディズニー『ファンタジア』(1940)の終幕で採用され、管弦楽と合唱による荘厳な映像美とともに世界的認知を高めた。以後も映像・広告分野での採用例は多いが、具体的な作品名の網羅情報は情報不明。舞台・儀式の場では、宗教施設やホールでの式典音楽として広く用いられている。

現代における評価と影響

透明な旋律と簡潔な構成は、演奏者の表現力を映す鏡として今日も愛奏される。声楽では発声とレガートの基本教材として、器楽ではカンタービレの模範曲として位置づけられる。多数の著名歌手や合唱団、室内楽団が録音を残し、ピアノ伴奏版からオルガン、弦楽合奏、ギター独奏まで多彩な編曲が普及。配信時代にも再生数と検索需要は高く、クラシック入門層からコアな歌唱研究まで幅広い関心を集め続けている。

まとめ

原詩に根ざしたリートとしての顔と、普遍的な祈りの歌としての顔を併せ持つ名作。静かな伴奏と歌いやすい旋律が、儀式から演奏会、家庭のレパートリーまで浸透している。歴史的背景を知ることで、単なる“定番”を超えた豊かな解釈が開けるだろう。