Cry Baby Cry
- 作曲: MCCARTNEY PAUL JAMES,LENNON JOHN WINSTON

Cry Baby Cry - 楽譜サンプル
Cry Baby Cry|歌詞の意味と歴史
基本情報
「Cry Baby Cry」は、ビートルズのオリジナル曲で、作者表記はレノン=マッカートニー。1968年発売のアルバム『ザ・ビートルズ(通称ホワイト・アルバム)』に収録される。プロデューサーはジョージ・マーティン。ボーカルの中心はジョン・レノンで、エンディングにはポール・マッカートニーによる短いコーダ「Can You Take Me Back」が接続され、続曲への橋渡しを担う。リリースはアップル・レコード。公式に確認できるシングルカットはなく、アルバム曲として親しまれてきた。
歌詞のテーマと意味
童謡を思わせる語り口で、王や女王、子どもたちの日常が寓話的に描写されるのが本作の核だ。現実と空想の境界が曖昧になり、家庭的な風景に漂う微妙な不穏さが、反復的な呼びかけや場面転換によってじわりと増幅していく。幼少期の記憶、親子関係の距離、権威と無垢のねじれといった読みが可能だが、明確な物語の解答は提示されない。最後に挿入されるポールのコーダが、夢の終わりのような浮遊感と孤独感を付与し、次曲へと意識を滑らせる設計も印象的である。
歴史的背景
制作は1968年、バンドの関係が揺れ動いた『ホワイト・アルバム』期。スタイルの多様化が進む中で、本曲は派手な実験性を前面に出すのではなく、抑制の効いたアコースティック基調と緻密なスタジオワークを組み合わせている。録音はロンドンのEMIスタジオで行われ、エディットによって「Can You Take Me Back」の断片が後半に配置され、続く前衛的コラージュ曲「Revolution 9」への橋渡しとなった。アルバム内の配置そのものが、作品の意味作用を補強する好例と言える。
有名な演奏・映画での使用
代表的な演奏はビートルズのオリジナル録音で、スタジオ作品として評価が定まっている。バンドが大規模ツアーを停止した時期の楽曲でもあり、コンサートでの定番的な披露は確認されていない。広く知られる著名アーティストのカバーや、映画・ドラマへの顕著な使用例は情報不明。映像作品での象徴的な起用が見当たらない一方、アルバムにおける流れの中で聴くことで魅力が最大化するタイプのトラックである。
現代における評価と影響
童謡風の比喩と陰影あるサウンドの組み合わせは、後年のサイケ/インディ系の語りに通じる手触りとしてしばしば言及される。特にコーダを含む構成は、物語が解体していく『ホワイト・アルバム』後半のドラマを象徴する場面設計として評価が高い。2018年の50周年記念版では新ミックスや関連音源が公開され、音色の解像度や配置意図が再検証された。現在も「アルバムを通して聴くと真価が際立つ隠れ名曲」として支持を集めている。
まとめ
「Cry Baby Cry」は、童謡的な語感を借りた寓話性と、スタジオ編集の妙で不穏な余韻を残す一曲だ。『ホワイト・アルバム』という多面体の中で、レノンのシュールな語りとマッカートニーの介入が交差し、物語性と実験性がバランスよく融合している。明確な解釈を押し付けず、聴き手の想像を誘う作りが、今なお色あせない魅力を支えている。