Inner Light, The
- 作曲: HARRISON GEORGE

Inner Light, The - 楽譜サンプル
Inner Light, The|歌詞の意味と歴史
基本情報
The Inner Light は、ジョージ・ハリスン作によるビートルズの楽曲で、1968年にシングル「Lady Madonna」のB面として発表された。ボンベイ(現ムンバイ)のEMIスタジオでインド古典の演奏家と基礎トラックを収録し、その後ロンドンでボーカルとオーバーダブを加えるという、当時としても異色の制作手法が採られている。ハリスンの東洋思想探究と本格的なインド音楽研究が結実した1曲で、シタールや管弦打楽器などの音色が全面に配され、西洋ポップとインド古典の折衷美を体現している。
歌詞のテーマと意味
歌詞は、外界へ赴かずとも内面の覚醒によって真理に至れるという思想を軸に展開され、道教の古典『老子(道徳経)』に触発された表現が核にあるとされる。旅や経験の量ではなく「内なる光」を見出すことの重要性を示唆し、静謐で瞑想的なメッセージが貫かれる。具体的な地名や物語設定に依存せず、普遍的な精神探求を掲げるため、時代や世代を越えて受け取れるのが特徴。説教調にならない簡潔な言葉運びと、柔らかな旋律・持続音の響きが相まって、聴き手を内省へと導く設計になっている。
歴史的背景
ハリスンは1966年以降、インド音楽と精神文化に傾倒し、名手の指導を受けつつ独自の作曲語法を育てた。The Inner Light は、その探究の成熟期に位置し、映画音楽制作と並行したボンベイ録音で得た人脈と経験が反映される。ビートルズがバンドとしてライブ活動を停止した後期にあたり、スタジオを実験場として世界の音楽語法を取り込む動きの中で生まれたことも重要である。西洋のヒット・シングルのB面に、純度の高いインド古典要素を組み込んだ例として、同時代のポップ界でも特異な位置を占める。
有名な演奏・映画での使用
ビートルズは活動末期に生演奏の機会が限られていたため、同曲の公式なライブ・パフォーマンスは多くない。録音音源は後年、公式編集盤Past Mastersなどに収録され、オリジナル・シングル未入手のリスナーにも広く行き渡った。追悼公演やトリビュートで取り上げられることはあるが、具体的な映像作品での顕著な使用例は情報不明。スタジオ制作の妙味と編成の特殊性から、録音自体が決定版として参照される傾向が強い。
現代における評価と影響
The Inner Light は、ポップ・ソングの器にインド古典の構造と哲学的テキスト志向を溶け込ませた先駆的作例として評価が高い。東西の美学を無理なく結びつけ、音色・リズム・旋法の選択で“祈り”の雰囲気を醸成した点は、後続のワールド・ミュージックやオルタナ系アーティストにも示唆を与えた。ハリスンの作家性がビートルズ作品の中でも独自の輝きを放つ一曲であり、精神性をテーマにしながらも親しみやすい長さと構成に収めたバランス感覚が今日も再評価され続けている。
まとめ
1968年のシングルB面として登場したThe Inner Light は、内面の覚醒を説く歌詞とインド古典の音世界が融合した稀有な楽曲である。ボンベイとロンドンをまたいだ録音体制、簡潔で普遍的なメッセージ、そして時代を超える静謐な美しさにより、ビートルズ後期の実験精神を象徴する一作として重要な位置を占める。映画での使用は情報不明だが、録音の完成度と思想的含意により、現在も多くのリスナーと研究者から支持を受けている。