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Bewitched
- 作曲: RODGERS RICHARD

Bewitched - 楽譜サンプル
Bewitched|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Bewitched」は正式題「Bewitched, Bothered and Bewildered」。作曲はリチャード・ロジャース、作詞はロレンズ・ハートで、1940年のブロードウェイ・ミュージカル『パル・ジョーイ』のために書かれたラブ・バラードです。劇中では上流婦人ヴェラ・シンプソンが歌い、登場人物の複雑な心情を繊細に描出。のちに曲はショーを離れて独立し、アメリカン・ソングブックを代表するスタンダードとして定着しました。
音楽的特徴と演奏スタイル
緩やかなテンポのバラードで、滑らかな旋律線と豊かな和声進行が特徴。ボーカルではルバートのイントロや間合いを生かした語り口が好まれ、内省的なダイナミクスが映えます。ジャズ演奏では、テンションを生かしたピアノ・ヴォイシングや控えめなブラシのリズムで、陰影あるサウンドを作るのが定番。歌詞は成熟したユーモアと自己皮肉を含み、恋の陶酔と戸惑いを巧みに表現します。舞台版には複数のヴァースがあり、録音では省略・改変される場合もあります。
歴史的背景
ロジャース&ハートは1930年代から数々の名曲を生み、本曲もその黄金期の成果の一つ。『パル・ジョーイ』はアンチヒーローを主人公に据えた革新的な作品で、大人びた恋愛観と辛口の風刺が話題となりました。1957年の映画版『Pal Joey』でも本曲が使用され、ヴェラ役のリタ・ヘイワースのシーンで印象深く扱われます(歌唱はJo Ann Greerによる吹き替え)。こうして舞台・映画双方を通じて、曲の知名度は一層高まりました。
有名な演奏・録音
エラ・フィッツジェラルドは『Sings the Rodgers & Hart Song Book』(1956)で決定版として知られる名唱を残しました。インストゥルメンタルでは、オスカー・ピーターソンの『Plays the Richard Rodgers Song Book』(1959)が名演の一つに数えられます。ポピュラー領域では、ロッド・スチュワートとシェールのデュエット(2003)が新たなリスナーに楽曲を広めました。多くの歌手・ジャズ奏者がレパートリーに取り上げ、録音は現在も更新されています。
現代における評価と影響
「Bewitched」はアメリカン・ソングブックの中核曲として、ボーカル志向のジャズ・スタンダード学習曲に位置付けられます。機知に富む英語の言葉運びや長いフレーズは、ディクションやブレス配分の訓練にも適合。編曲次第でクラブからコンサートホール、映像作品まで幅広く機能し、現代のプレイリストや配信でも親しまれています。音楽的・言語的双方の豊かさが、時代を超える支持の源泉です。
まとめ
ロジャースの洗練された旋律とハートの機知に富む歌詞が結晶した「Bewitched」は、舞台発のショー・チューンでありながら、ジャズ史における普遍的バラードへと昇華しました。歌い手には感情表現と語りの技量を、奏者には和声感と音色設計を要求する名曲として、今なお多彩な解釈を生み続けています。