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A Felicidade
- 作曲: JOBIM ANTONIO CARLOS

A Felicidade - 楽譜サンプル
A Felicidade|作品の特徴と歴史
基本情報
A Felicidade(ポルトガル語で「幸福」)は、作曲JOBIM ANTONIO CARLOS(アントニオ・カルロス・ジョビン)によるボサノヴァの楽曲で、作詞はVinícius de Moraes。1959年公開の仏=ブラジル合作映画『黒いオルフェ(Orfeu Negro)』のために書かれ、サウンドトラックの中心曲の一つとして知られる。言語はポルトガル語、初出年は1959年。映画音楽として生まれながら、単独曲としても広く演奏される。
音楽的特徴と表現
穏やかなボサノヴァの拍感と繊細なシンコペーションが基調。柔らかなギターの分散和音や淡い打楽器に支えられ、メロディは抑制された抒情を湛える。調性は短調寄りで、ジョビン特有のリッチな和声(経過的な転調や半音階的なベース進行、拡張和音)が切なさを際立たせる。歌詞は「幸福のはかなさ」と「喜びと憂いの同居」を主題に、カーニバルの喧騒と人の内面を対照的に描写。軽やかなリズムに内省的な情緒を重ねる設計が、映像と共鳴する。
歴史的背景
1950年代末、リオ・デ・ジャネイロで新潮流ボサノヴァが台頭。ジョビンとデ・モラエスは協働を重ね、『黒いオルフェ』の音楽で国際的注目を獲得した。映画自体はカンヌ国際映画祭パルム・ドールおよび米アカデミー外国語映画賞を受賞し、ブラジル音楽の世界的認知を加速。A Felicidadeは、この歴史的転換点で生まれた楽曲として、同時代の都市的洗練とサンバの根を架橋する役割を果たした。
使用された映画・舞台(該当時)
本作は1959年公開の映画『黒いオルフェ(Orfeu Negro)』サウンドトラックに収録。リオのカーニバルを背景にした物語の中で、祝祭の明るさと運命の切なさを象徴する楽曲として配置され、劇中の情景や登場人物の感情に寄り添う形で用いられた。映画の国際的成功とともに、楽曲も広く知られるようになった。
現代における評価と影響
A Felicidadeは映画音楽の枠を超え、ジャズやボサノヴァの定番レパートリーとして世界各地で演奏・録音され続ける。独特のハーモニー運用は教育現場や理論分析の題材となり、歌詞の主題性はステージ演出やプログラミングでも重宝される。映画音楽史とブラジル大衆音楽史の接点を示す代表例として、今日も高い評価を得ている。
まとめ
『黒いオルフェ』のために生まれたA Felicidadeは、ボサノヴァの洗練と映画的叙情を結晶させた名曲である。繊細なリズム、陰影ある和声、普遍的な主題が相まって、単体の歌としても映画文脈でも強い訴求力を持つ。半世紀以上を経ても色褪せず、聴き手と演奏家の双方に新たな解釈の余地を与え続けている。