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Dance Cadaverous
- 作曲: SHORTER WAYNE

Dance Cadaverous - 楽譜サンプル
Dance Cadaverous |楽曲の特徴と歴史
基本情報
Dance Cadaverousは、サックス奏者・作曲家ウェイン・ショーターによるインストゥルメンタル曲。1966年にBlue Noteから発表されたアルバム『Speak No Evil』に収録され、録音は1964年12月に行われた。オリジナル・セッションのメンバーは、Wayne Shorter(tenor sax)、Freddie Hubbard(trumpet)、Herbie Hancock(piano)、Ron Carter(bass)、Elvin Jones(drums)。歌詞を持たない純器楽作品で、ショーターの先鋭的な作曲美学を示す代表的レパートリーのひとつとして知られる。
音楽的特徴と演奏スタイル
この曲は、明快な機能和声よりも、曖昧さを孕む和声進行と独特のモーダル感を軸に展開する。メロディは陰影に富み、音域の跳躍と静かな持続音が交錯して、幽玄でミステリアスなムードを形成。ピアノとベースは固定観念に縛られないヴォイシングやペダル感で空間を描き、ドラムは色彩的なシンバル・ワークとダイナミクスで呼吸を与える。各奏者は過度に語りすぎず、フレーズ間の「間」を生かすのが鍵。ソロは構造的な発展というより、音響的な質感の変化と動機の再配置で物語を紡ぐアプローチが好相性である。
歴史的背景
『Speak No Evil』期のショーターは、Blue Noteを舞台に作曲家としての革新性を加速させていた。Dance Cadaverousもその流れに位置づけられ、ハードバップの語法から一歩進み、ポストバップ以降の語彙を拡張する試みが結実している。録音時期は1964年末で、当時ショーターは最先端のジャズ・シーンの中核におり、複雑さと抒情性を併せ持つ筆致を確立。タイトルが喚起する不穏なニュアンスと、音楽的な含意の多義性が、同時代のジャズの感性を象徴している。
有名な演奏・録音
基準盤としてまず挙げられるのが、Blue Note『Speak No Evil』におけるオリジナル録音である。ハバード、ハンコック、カーター、ジョーンズという布陣が、ショーターの筆致を最大限に立体化し、静謐と緊張を併存させた名演を残した。後年も多くのジャズ・ミュージシャンがレパートリーに取り上げているが、代表的カバーの網羅的リストは情報不明。再発やリマスター音源は複数存在し、音質面の改善によって細部の相互作用がより鮮明に聴き取れる。
現代における評価と影響
Dance Cadaverousは、和声の曖昧さを美として成立させるショーター流の設計を学ぶ格好の教材として、教育現場やプロの現場で参照され続けている。アドリブの語り口においても、定型的クリシェより動機変奏と音色の彫琢を重視する姿勢を促し、ポストバップ以降の作編曲や即興の美学に広く影響を与えた。今日でもセットリストに組み込まれる機会があり、現代ジャズの表現領域を測る一曲として評価が定着している。
まとめ
ショーターの作曲術が凝縮されたDance Cadaverousは、簡潔な素材から豊かな情景を引き出す設計が妙味。確かな資料に基づく録音史と、多義的な音調による表現力の高さが、長年の支持を支えている。歌詞を持たないからこそ、演奏者それぞれの解釈が余白を満たし、聴くたびに新しい相貌を見せる現代ジャズの重要作である。