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Lester Left Town
- 作曲: SHORTER WAYNE

Lester Left Town - 楽譜サンプル
Lester Left Town|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Lester Left Town」はテナーサクソフォニスト/作曲家ウェイン・ショーターの作品。1959年に逝去したレスター・ヤングへのオマージュとして書かれ、タイトルは「レスターが町を去った」の意。初出はArt Blakey & The Jazz MessengersのBlue Note盤『The Big Beat』(1960)で、ホーン・フロントを中心にしたクインテット編成(トランペット、テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラム)で録音された。歌詞は存在せず、作詞者は情報不明。
音楽的特徴と演奏スタイル
陰影に富む旋律と、機能和声に回収されにくいショーター独特の進行が織りなす、詩情と緊張感の同居が魅力。主題はシンプルな動機を巧みに反復・変奏し、ホーンのユニゾンとハーモニーがドラマを形作る。アート・ブレイキーのダイナミックなドラムが推進力を与え、ミドル〜アップのスウィング感の中でソロが自在に展開。端正さとブルース・フィールのバランスが、ハード・バップからポスト・バップへ向かう過渡期の語法を体現している。
歴史的背景
1959年、モダン・ジャズの巨人レスター・ヤングがこの世を去り、その余韻の中で書かれた本作は、哀悼と敬意を込めたショーター流のエレジーとされる。ショーターは1959年にメッセンジャーズへ加入し音楽監督を務め、バンドのサウンドを刷新。1960年前後のジャズ・シーンはブルーノートを中心に新機軸が生まれつつあり、本曲もそうした潮流の中で位置づけられる。
有名な演奏・録音
決定的名演はArt Blakey & The Jazz Messengers『The Big Beat』(1960)。リー・モーガン、ウェイン・ショーター、ボビー・ティモンズ、ジミー・メリットという黄金の布陣が、曲の陰影を鮮烈に描き出す。その後もメッセンジャーズのレパートリーとしてたびたび演奏され、さまざまなジャズ・ミュージシャンがクラブやコンサートで取り上げてきた。商業映画やドラマでの使用については情報不明。
現代における評価と影響
ショーター作品群の中でも、作曲的アイデアと演奏上の自由度が高い楽曲として評価が定着。サクソフォニストのみならず、作曲・アレンジを学ぶ学生が和声運用や主題処理を研究する題材にもなっている。ジャム・セッションでの常套曲というよりは、バンドで丁寧に構築して演奏されることが多く、ショーターの美学を理解する入口として重宝される。
まとめ
「Lester Left Town」は、ハード・バップの熱量とポスト・バップ的な思索性が交錯するショーターの美質を凝縮した一曲。レスター・ヤングへの敬意を静かな炎で包み込み、録音から半世紀以上を経ても色褪せない表現力で聴き手を惹きつける。まずは『The Big Beat』のテイクから、その奥行きを味わいたい。