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The Mooch
- 作曲: ELLINGTON DUKE,MILLS IRVING

The Mooch - 楽譜サンプル
The Mooch|楽曲の特徴と歴史
基本情報
The Mooch(一般に“The Mooche”表記でも知られる)は、Duke EllingtonとIrving Millsによる1928年の作品。エリントン初期の代表曲で、主にインストゥルメンタルとして演奏される。作詞の有無は情報不明で、標準的なヴォーカル版は広く定着していない。ジャンルはジャズ、特にエリントンが確立した“ジャングル・サウンド”期の重要ナンバーとして位置づけられる。
音楽的特徴と演奏スタイル
低めのテンポと短調のムード、官能的なハーモニーが核。プランジャー・ミュートを用いた金管のワウ効果や、唸るようなグロウル奏法が音色面の個性を作る。クラリネットのしなやかな旋律と、コール&レスポンスで絡むブラス・セクションが特徴的で、リズムはスウィング以前の粘りを保ちつつ、ダンス・バンドとしての推進力を備える。編曲は音色の層を緻密に重ね、ナイトクラブの退廃的で官能的な空気を音響的に描写している。
歴史的背景
本作はハーレムのコットン・クラブ時代に結実したエリントンの劇場音楽的感覚を象徴する。ショウの場面転換やダンスを想定した“情景描写のためのジャズ”という性格が強く、初期エリントン楽団のサウンド・アイデンティティを確立した作品群の中でも中核に位置する。ミュート金管の特殊奏法や、管楽器の色彩配置は後年のビッグバンド編曲に大きな影響を与えた。
有名な演奏・録音
1928年のエリントン楽団による初録音が基準点とされ、その後も楽団はたびたび再録・再演を行いレパートリーとして定着した。クラリネットを前面に出す版や、テンポやイントロ書き替えによるステージ用アレンジなど、多数のバリエーションが存在する。他のジャズ・バンドや現代のビッグバンドでも取り上げられており、編曲教材としても参照されることが多い。映画やテレビでの具体的使用については情報不明。
現代における評価と影響
The Moochは、初期エリントンの音色設計とドラマ性を示す標本として高く評価される。ミュート金管の表現力、対位的に動く木管、ベースとドラムの粘着感あるグルーヴは、スウィング期以前のジャズが持つ“夜の気配”を今日に伝える。アンサンブル・スタディの題材としても有用で、音色バランス、ダイナミクス、フレーズのレガート/スタッカート対比など、演奏上の学びが豊富である。
まとめ
1928年に生まれたThe Moochは、エリントンのジャングル・サウンドを象徴するインスト名曲。官能的な和声、ミュート金管のグロウル、クラリネットの妖艶なリードが織りなす独特の空気感は、当時のクラブ文化と結びつきつつ、今日でも色褪せない魅力を放つ。歴史的意義と演奏的学びの両面から、今なお聴く・演じる価値の高いジャズ・スタンダードである。