O Morro Nao Tem Vez (Favela) (Somewhere In The Hills)
- 作曲: JOBIM ANTONIO CARLOS

O Morro Nao Tem Vez (Favela) (Somewhere In The Hills) - 楽譜サンプル
O Morro Nao Tem Vez (Favela) (Somewhere In The Hills)|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『O Morro Nao Tem Vez(丘には出番がないの意)』は、アントニオ・カルロス・ジョビンによるボサノヴァ曲。別名『Favela』、英題『Somewhere In The Hills』としても知られる。オリジナル歌詞はポルトガル語で、英語詞版も存在する。都市の丘陵地帯=ファヴェーラを主題に、社会的周縁に置かれた人々の視点を扱う稀少な“社会派ボサノヴァ”の一つで、ジャズ/ブラジル音楽の双方で標準レパートリー化している。初出年や初演者の詳細は情報不明。
音楽的特徴と演奏スタイル
リオのサンバに根ざした2拍系の躍動と、ボサノヴァ特有の繊細なシンコペーションが核。和声はジョビンらしく、転調やII–V連結、テンションを多用し、短調と長調の行き来が詩情を深める。旋律は滑らかなアーチを描きつつ内声進行が巧妙で、弾き語りからハーモニックに高度なジャズ・アレンジまで対応可能。テンポはミディアムが定石だが、抑制的なイントロからクレッシェンドする設計や、ヴォーカル版とインスト版での対照的なダイナミクス設計も有効とされる。
歴史的背景
1960年代初頭のリオ・デ・ジャネイロで隆盛したボサノヴァは、都市生活の感性や詩的内省を洗練された語法で示した。本曲はその文脈にありながら、ファヴェーラを題材にした点で社会的テーマを前面化。タイトルが示す“丘には出番がない”という視点は、周縁化や不平等を暗示する。英語詞版『Somewhere In The Hills』の流通は、国際的な普及をさらに後押しし、ボサノヴァがジャズ・シーンへ橋渡しされる契機の一つとなった。
有名な演奏・録音
作曲者アントニオ・カルロス・ジョビン自身によるスタジオ録音が複数存在し、インストゥルメンタルでもヴォーカルでも定番として録音されてきた。英語詞版を含むさまざまなヴァージョンが流通し、ブラジルの歌手、ピアニスト、ジャズ・サクソフォン奏者やギタリストなど幅広い編成で取り上げられる。特定の初出盤や映画での使用の確定情報は情報不明だが、クラブ・シーンからコンサートまで継続的に演奏されるスタンダードである。
現代における評価と影響
本曲はハーモニーとリズムの洗練、詩的で社会性を帯びた主題の両立により、教育現場やセッションの教材曲としても重宝される。ボサノヴァ入門者にとってはリズム・フィールの学習に適し、中上級者にとっては再和声化やリハーモの余地が広い。プレイリストや配信時代においても、ブラジル音楽とモダン・ジャズを橋渡しする指標曲として高い評価を維持している。
まとめ
『O Morro Nao Tem Vez』は、ボサノヴァのリリシズムと都市的リアリティを結びつけた名曲。繊細なサンバ・グルーヴ、豊かな和声語法、そしてファヴェーラをめぐる視座が、今日まで多様な解釈を生み続ける。歌としても器楽曲としても生命力があり、ブラジル音楽とジャズの交差点を体現するスタンダードとして、今後も演奏され続けるだろう。