Lost
- 作曲: SHORTER WAYNE

Lost - 楽譜サンプル
Lost|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Lost は、サックス奏者・作曲家ウェイン・ショーターによるインストゥルメンタルのジャズ曲。初めて広く聴かれる形になった音源は、Blue Note レーベルのアルバム『The Soothsayer』に収録されたセッションで、録音は1965年、アルバムの発売は1979年とされる。編成はショーターのサックスに、Freddie Hubbard(トランペット)、James Spaulding(アルトサックス)、McCoy Tyner(ピアノ)、Ron Carter(ベース)、Tony Williams(ドラムス)を擁するセクステット。作詞は存在せず、歌詞のある楽曲ではない。楽曲の発表年・作曲年の公式な明記は情報不明。
音楽的特徴と演奏スタイル
ショーター中期の語法に通じる内省的な主題と、明確な機能和声に回収されない曖昧な調性感が大きな特徴。モーダルな静けさと、予期せぬ転回を含む和声進行が同居し、余白を活かしたフレージングを誘発する。メロディは簡潔ながらモチーフの反復と変形を軸に構築され、アンサンブルはダイナミクスの微細な変化でドラマを生む。ソロでは持続音や間合いが効果的に使われ、リズム・セクションは固定的なグルーヴに拘泥せず流動的に支えるため、各奏者の反応性が重要となる。テンポ設定やフォームの解釈には演者の裁量が大きく、録音ごとに陰影の差が出やすいレパートリーである。
歴史的背景
1964年前後からショーターはBlue Noteで創作のピークを迎え、同時期にマイルス・デイヴィスのクインテットにも在籍。Lost が録音された『The Soothsayer』は、その旺盛な実験精神を刻んだセッションのひとつで、レーベルのリリース方針により長く棚上げされ、1979年に世に出た経緯を持つ。ポスト・バップからアヴァンギャルドへの移行期に位置する作品群の中で、本曲は抒情と構造的複雑さのバランスを象徴的に示し、当時のニューヨーク・シーンにおける作曲の在り方を更新した。
有名な演奏・録音
基準となる参照音源はBlue Note『The Soothsayer』のテイクで、ショーター(ts)を中心に、Freddie Hubbard(tp)、James Spaulding(as)、McCoy Tyner(p)、Ron Carter(b)、Tony Williams(ds)という錚々たる陣容が参加。各奏者の音色対比と反応性の高いインタープレイが、楽曲の抽象性を具体的な物語に転化している。他アーティストによる代表的な公式録音の網羅は情報不明だが、モダン・ジャズのレパートリーとして取り上げられる例は少なくない。映像作品や映画での使用例についても情報不明。
現代における評価と影響
Lost は、ショーターの作曲美学—簡潔な動機、流動的和声、意味深い沈黙—を学ぶ好例として、研究・分析の対象となることが多い。アンサンブル運用やハーモニーの捉え方に柔軟性を求める点は、現代ジャズの作編曲や即興に通底し、若手演奏家のレパートリーにも影響を与えている。頻繁にセッションで演奏される“超定番”ではないものの、深い探求に値する一曲として、評論家やミュージシャンから継続的な関心を集めている。
まとめ
ウェイン・ショーター作曲の Lost は、抒情と構造的緊張が交錯するモダン・ジャズの重要作。Blue Note『The Soothsayer』での名演は必聴で、楽曲の核心—曖昧な調性とモチーフ操作—を鮮やかに示す。確定情報が限られる部分(作曲年・他の著名録音など)は情報不明だが、ショーター作品の魅力を知る導入として最適な一曲である。