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I'm In The Mood For Love
- 作曲: MC HUGH JIMMY

I'm In The Mood For Love - 楽譜サンプル
「I'm In The Mood For Love|楽曲の特徴と歴史」
基本情報
「I'm In The Mood For Love」は、作曲ジミー・マクヒュー、作詞ドロシー・フィールズによる楽曲。1935年の映画『Every Night at Eight』でフランシス・ラングフォードにより初披露され、以後アメリカン・ソングブックを代表するジャズ・スタンダードとして広く親しまれている。穏やかな恋情をまっすぐに歌い上げるテキストと、耳に残る滑らかな旋律が特徴で、ヴォーカル曲として生まれながら、インストゥルメンタルでも多く演奏されてきた。初出年、初演者、映画との結びつきが明確で、発表時から大衆に受け入れられた数少ないスタンダードの一つである。
音楽的特徴と演奏スタイル
テンポはバラードからミディアム・スイングまで幅広く、冒頭をルバートで導入し、拍を明確にしてから本編へ入る解釈がよく聴かれる。旋律は歌いやすい音域に収まり、跳躍と順次進行のバランスがよく、フレーズの収まりが自然で、歌詞の抑揚を生かしやすい。和声はトニックに安定しつつ、適度なセカンダリー・ドミナントや置換和音で色彩を加える設計で、ソロではガイドトーン・ラインを軸にしたスウィング・フィール、あるいは抒情的なロングトーン中心のバラード表現が効果的。エンディングにはフェルマータを伴う長めのタグや、半音下行のカデンツを用いる例も多い。デュオからフルバンド編成まで適応し、ヴォーカルでは語尾のニュアンスや間合いが要となる。
歴史的背景
1930年代の映画音楽とティン・パン・アレー文化の中で生まれた本曲は、スクリーンを通じて大衆に届き、楽譜販売とラジオ放送で瞬く間に広まった。マクヒューとフィールズは当時を代表するヒットメーカーのコンビとして知られ、シンプルで記憶性の高い旋律と、直接的で親密な語り口の歌詞で成功を重ねた。本曲もその典型で、映画文脈のロマンスを、日常の恋愛へと橋渡しする普遍性を持ち、戦前から戦後にかけてのダンスホールやクラブのレパートリーに定着した。
有名な演奏・録音
初演者のフランシス・ラングフォードに加え、ルイ・アームストロングの温かなトーンは楽曲のスウィング解釈を定着させた。チャーリー・パーカーの“with Strings”での演奏は、リリシズムとジャズ・アドリブの融合という新たな鑑賞軸を提示。さらに、ジェームス・ムーディのソロをもとにしたヴォーカリーズ作品“Moody’s Mood for Love”が派生し、キング・プレジャーらにより広まったことは、本曲のハーモニーが即興と歌詞付けの両面で豊かな可能性を持つことを示している。
現代における評価と影響
今日でもセッションやリサイタルで頻繁に取り上げられ、ヴォーカリストの表現力、そして管・弦・ピアノ各奏者のレガートや音色設計を磨く教材的価値を持つ。歌詞の内容は直接的な愛の告白で、過度なドラマ性に頼らず親密さを保つため、親密な会場やスタジオ録音に適する。ジャズ教育の現場では、メロディの呼吸とガイドトーンの運用、ダイナミクス設計を学ぶ題材として重宝されている。
まとめ
「I'm In The Mood For Love」は、映画発の名曲が時代と文脈を超えて歌い継がれる好例である。簡潔な旋律と普遍的な歌詞、柔軟な編成対応力が、ヴォーカル・インスト双方での長寿命を支えてきた。名演の蓄積は解釈の幅を示しつつ、原曲の魅力を損なわない。入門にも、表現を磨く中級以上にも適した、まさに定番中の定番と言える。