あなたのポケットにスタンダードの楽譜集をソングブック12keyに移調できる楽譜アプリ「ソングブック」

さくらんぼの実る頃/Le Temps Des Cerises

  • 作曲: RENARD ANTOINE AIME
#シャンソン
App StoreからダウンロードGoogle Playで手に入れよう
← 楽曲一覧に戻る

さくらんぼの実る頃/Le Temps Des Cerises - 楽譜サンプル

さくらんぼの実る頃/Le Temps Des Cerises|歌詞の意味と歴史

基本情報

「さくらんぼの実る頃(Le Temps Des Cerises)」は、作曲RENARD ANTOINE AIME(Antoine Renard)によるフランスのシャンソン。作詞はJean‑Baptiste Clémentで、成立は1866年とされます。日本語題は原題の直訳で広く知られ、恋と季節の情景をやさしい旋律にのせた小品ながら、後年は社会史と強く結びつく象徴的な歌として位置づけられています。楽曲は親しみやすい歌メロを中心に、抒情的で口ずさみやすい構成。出版・初演の詳細なデータは資料により差がありますが、19世紀後半のフランスで広まったことは確かです。

歌詞のテーマと意味

歌詞は、初夏に実るさくらんぼを、若さや恋のときめき、そして幸福の儚さにたとえる内容です。甘さと同時に、摘み取られた実がこぼす赤のイメージが、喜びと痛みを二重写しにします。軽やかな恋の歌として始まりながら、季節が巡り去るように恋もまた過ぎ去ること、心に残る傷や記憶の重みが静かに示唆されます。この二面性が、単なる恋歌を超えた普遍性を与え、時間の流れと人の営みを思索へと導きます。全編を通じて比喩が巧みに配され、聴き手に多義的な解釈の余地を残す点が名曲たるゆえんです。

歴史的背景

本曲は1871年のパリ・コミューンと結びつくことで特別な歴史的意味を帯びました。蜂起と鎮圧を経験したフランス社会において、若い命の散華や失われた理想を悼む象徴として受け止められ、恋歌の比喩は追悼と抵抗の感情をも内包するようになります。作詞者Clémentはこの曲に深い思いを託したと知られ、以後、労働運動や市民運動の場でも多く歌われました。詩と旋律が時代の記憶を担い、文化的アイコンへと変貌した稀有な例といえます。

有名な演奏・映画での使用

録音は数多く、Yves MontandやCharles Trenet、Serge Reggianiなど、主要なシャンソン歌手がレパートリーに取り上げています。編成は独唱とピアノ、アコーディオンを含む小編成が定番で、テンポやニュアンスの違いによって恋歌寄りにも挽歌寄りにも表情を変えます。映画・映像作品での使用もしばしば見られ、とくにフランスの歴史やコミューン期を扱う作品・ドキュメンタリーで引用されることがあります。代表的な具体的作品名は情報不明。

現代における評価と影響

今日でも「さくらんぼの実る頃」はフランス語圏のスタンダードとして歌い継がれ、コンサートから記念行事まで幅広く演奏されます。音程跳躍が少なく歌詞が印象に残るため、合唱や教育現場のレパートリーとしても親しまれます。また、詩的比喩が豊かで翻訳にも耐えることから、多言語でのカバーが存在し、国や世代を越えて共感を呼び続けています。恋と季節の歌でありながら、社会の記憶を運ぶ“文化資本”としての価値が再評価されています。

まとめ

本曲は、Antoine Renardの端正な旋律とClémentの多義的な詩が結びついたシャンソンの古典です。さくらんぼの甘美さに潜む痛みという寓意は、個人的な恋の記憶から集団的な追悼へと拡張され、150年以上を経ても色あせません。名演の聴き比べで解釈の幅を味わいつつ、成立と歴史的文脈を踏まえることで、作品の核にある“儚い幸福と忘却への抗い”がより鮮明に立ち上がるでしょう。