I've Got The World On A String
- 作曲: ARLEN HAROLD, KOEHLER TED

I've Got The World On A String - 楽譜サンプル
「I've Got The World On A String|楽曲の特徴と歴史」
基本情報
「I've Got The World On A String」は、1932年にハロルド・アーレン(作曲)とテッド・コーラー(作詞)の名コンビによって生まれたポピュラー歌曲。ニューヨークのレビュー「Cotton Club Parade(1932)」で初披露され、その後アメリカン・ソングブックの重要レパートリー、いわゆるジャズ・スタンダードとして定着した。恋の高揚感を、世界を手玉に取るような比喩で晴れやかに描く歌詞と、スウィングする明快な旋律が魅力で、歌手・器楽奏者ともに取り上げる機会が多い。
音楽的特徴と演奏スタイル
中速のスウィングで演奏されることが多く、軽快なリズムに乗るキャッチーな主題が印象的。実演では32小節を基本とする標準的な形式(AABA系)で扱われる例が多く、ヴァースやイントロの有無は編曲次第。メロディは跳躍と滞空感のあるロングトーンが交錯し、歌手にはタイムの粘りと抑揚のコントロールが求められる。ハーモニーは機能的で、II–V進行に基づくアドリブ展開との相性が良い。小編成コンボからビッグバンドまで編成適応力が高い点もスタンダードたる所以である。
歴史的背景
作曲家アーレンと作詞家コーラーは、当時ハーレムの名門クラブであるコットン・クラブのレビュー向けに数多くの楽曲を書いた。本作もその流れで生まれ、景気後退の時代において希望や活力を与えるナンバーとして受け入れられた。舞台の成功を足掛かりにレコード録音とラジオ放送で広まり、ショウ・チューンからポピュラー、そしてジャズの共通レパートリーへと定着していく。
有名な演奏・録音
初演歌手として知られるキャブ・キャロウェイ、初期の録音で存在感を示したビング・クロスビーは本曲の普及に貢献した。とりわけフランク・シナトラが1950年代にネルソン・リドル編曲で残した録音は、洗練されたスウィング感とフレージングの手本として名高い。さらにエラ・フィッツジェラルドは「ハロルド・アーレン・ソングブック」に収録し、作曲家へのオマージュとともに作品価値を再確認させた。以降、多数のジャズ歌手・器楽奏者が新録を重ねている。
現代における評価と影響
今日でも本曲はジャム・セッションやヴォーカルの定番として演奏され、スウィング・フィール、スキャット、ブラスのパンチなど多様な表現を学べる教材曲として評価が高い。キー設定やテンポを自在に変えやすく、ビッグバンドでもコンボでも映えるため、教育現場からステージ、配信世代のカヴァーまで幅広く生き続けている。歌とアレンジの妙が試される“スタンダード中のスタンダード”である。
まとめ
コットン・クラブ生まれの明朗な名曲は、時代を越えて愛されるジャズ・スタンダードに成長した。比喩に富む歌詞とスウィングする旋律、柔軟な編曲適性が、録音史の名演を生み続けている。初学者にも玄人にも、表現の奥行きを教えてくれる一曲だ。