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It Never Entered My Mind

  • 作曲: RODGERS RICHARD
#スタンダードジャズ
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It Never Entered My Mind - 楽譜サンプル

It Never Entered My Mind|楽曲の特徴と歴史

基本情報

It Never Entered My Mind は、作曲家Richard Rodgersと作詞家Lorenz Hartによる1940年の楽曲。ブロードウェイ・ミュージカル『Higher and Higher』で初披露され、その後ジャズ/ポピュラー双方の領域で広く歌い継がれてきた。内省的で静謐なバラードとして知られ、失われた愛と気づきの感情を、品位ある旋律線と洗練されたハーモニーで描き出す。舞台起源のスタンダードらしく、歌唱曲としての完成度が高く、器楽演奏でも旋律美が際立つ。

音楽的特徴と演奏スタイル

テンポはスローからミディアム・スローのバラードが基本。流麗で歌いやすいメロディに、半音階的な声部進行や機能和声の滑らかな転回が絡み、穏やかだが豊かな情感を生む。ジャズでは空間を生かしたフレージング、控えめなダイナミクス、余韻を重んじる解釈が好まれる。ヴォーカルは語り口やブレス位置の工夫で心情の陰影を描写し、器楽ではピアノの経過和音やホーンのレガート奏法が旋律の繊細さを引き立てる。序奏にルバートを配す解釈も定番で、フックとなる主題へ自然に導く。

歴史的背景

ロジャース&ハートは1920〜40年代のブロードウェイを代表する名コンビで、本曲は晩年期に位置づけられる作品の一つ。舞台楽曲として生まれながら、劇中の文脈を離れても普遍性を保つ歌詞と旋律が評価され、戦後のジャズ・シーンでバラード・レパートリーとして定着した。ビッグバンドから小編成コンボ、クラブ・シンガーまで、幅広い現場で扱いやすい構成と情緒が、標準曲化を後押しした。

有名な演奏・録音

Miles Davisによる内省的な解釈(例:1956年のクインテット名義録音)は、器楽版の代表格として知られる。ヴォーカルではFrank Sinatraがアルバム『In the Wee Small Hours』(1955)で取り上げ、夜想的ムードの決定版を示した。Ella Fitzgeraldも『Sings the Rodgers & Hart Song Book』(1956)で格調高い歌唱を残し、楽曲の歌詞的価値と旋律美を再確認させた。これらの録音は以後の歌手・奏者にとって参照点となり、解釈の幅を広げる基準として受け継がれている。

現代における評価と影響

今日ではジャズ教育の現場やセッションで頻繁に取り上げられる定番バラード。歌詞の心理描写と旋律線の親和性が高く、ヴォーカル・スタディの教材としても有用とされる。器楽ではミニマルな伴奏で歌心を際立たせる編曲が好まれ、クラブ、コンサート、スタジオ録音のいずれでも映える柔軟性を持つ。時代を超える普遍性により、新世代の演奏家にも継続的に選ばれ、プレイリストや配信プラットフォームでも安定した支持を得ている。

まとめ

It Never Entered My Mindは、舞台発の名旋律と奥行きある言葉が結晶した永遠のバラードである。静かな情感、洗練された和声、解釈の余地という三拍子がそろい、ヴォーカルと器楽の双方で光る。歴史的名演を手がかりに自分なりのテンポ感や間合いを探ることで、この曲の核心—抑制の美—に到達できるだろう。