UNO
- 作曲: MORES MARIANITO,MARTINEZ MARIANO

UNO - 楽譜サンプル
UNO |歌詞の意味と歴史
基本情報
「UNO」はアルゼンチン・タンゴの名曲で、音楽はマリアーノ・モレス(Mariano Mores)が担当。クレジット「MORES MARIANITO, MARTINEZ MARIANO」は、彼の芸名(Marianito/Mariano Mores)と本名(Mariano Martínez)が併記されたものと解される。作詞はエンリケ・サントス・ディセポロ(Enrique Santos Discépolo)。初出は1943年、ジャンルはタンゴ。原詞言語はスペイン語。しっとりしたカンシオーン系の旋律と、表現力の高い歌詞で、歌手の解釈が重視されるレパートリーとして広く親しまれている。
歌詞のテーマと意味
題名「Uno(ひとは/人は)」が示す通り、普遍的な“人間”の孤独と自己欺瞞、そして愛による救済と破局の二面性を描く。希望に満ちて愛を求めた人間が、裏切りや失意を経て心を閉ざしてしまう心理の推移が、中間部の大きな感情のうねりで強調される。歌詞は直接的な罵倒や嘆きに寄らず、もし心がまだ無垢なら、という仮定法的な言い回しで“もう一度信じたいが信じられない”という苦渋を浮かび上がらせる。語彙は平易ながら比喩が精緻で、歌手は弱音からクライマックスに至る呼吸設計と、言葉の子音・母音の響きを緻密に扱う必要がある。
歴史的背景
1940年代のブエノスアイレスはタンゴ円熟期。ダンス音楽としての機能と並行して、歌詞芸術としての深化が進み、ディセポロは社会的・哲学的陰影を帯びた作品で頭角を現した。モレスは叙情的で記憶に残る旋律を得意とし、「UNO」は両者の資質が結びついた代表作となった。第二次世界大戦下という不穏さと、都市の近代化による疎外感が、個人の内面に沈む孤独のモチーフを普遍化し、戦後も衰えない生命力を作品にもたらした。
有名な演奏・映画での使用
録音は数多く、タンゴ歌手ではフリオ・ソーサ、ロベルト・ゴジェネチェ、スサーナ・リナルディらの解釈が広く知られる。オルケスタではアニバル・トロイロ楽団などが名演を残し、ピアノ独奏・ギター編成・管弦楽版など多彩なアレンジも存在する。映画・ドラマでの具体的使用作品は情報不明だが、タンゴ・ショーやコンサートの名場面で頻繁に取り上げられ、スペイン語圏のみならず世界各地の歌手によるカバーで継承されている。
現代における評価と影響
「UNO」は歌詞の含意が深く、語りの巧拙が仕上がりを左右する“歌手の楽曲”として位置づけられる。ミロンガのフロアではダンス向けに演奏される機会は相対的に少ないが、リスニングやリサイタル、レコーディングの定番として不動の地位を確立した。音大や声楽家がレパートリーに編入する例も増え、クラシカルな発声とタンゴ特有の語り口の橋渡し教材としても評価されている。翻案・訳詞による上演も重ねられ、時代や地域を超えて共感を呼び続けている。
まとめ
1943年に発表された「UNO」は、モレスの叙情的旋律とディセポロの内省的詩世界が融合したタンゴの金字塔である。愛の希望と失望、再生への逡巡という普遍的テーマを、劇的なダイナミクスと精緻な比喩で描き切り、歌手の解釈力を試す楽曲として今も生き続ける。録音・編曲の厚い蓄積は、新たな表現の可能性を広げ、世代や国境を越えた受容を後押ししている。