YIRAYIRA
- 作曲: DISCEPOLO ENRIQUE SANTOS

YIRAYIRA - 楽譜サンプル
YIRAYIRA|歌詞の意味と歴史
基本情報
タイトルは一般に「Yira… yira」と表記され、作曲・作詞はエンリケ・サントス・ディセポロ。発表年は1929年、ジャンルはアルゼンチン・タンゴ(タンゴ・カンシオン)、原語はスペイン語。ディセポロは社会批評性の高い歌詞で知られ、本作もその代表格とされる。初期の名唱としてカルロス・ガルデルによる録音が広く知られ、その後も多くの歌手・楽団に取り上げられてきた。
歌詞のテーマと意味
本作は人生の不条理、孤独、利己主義が支配する社会への幻滅を直截に描く。信頼や友情が困窮の局面でいかに脆いかを語り、社会の“冷たさ”を突きつける視点が核にある。タイトルの“Yira”はリオプラタ地域の俗語ルンファルドに由来とされ、回り続ける運命や、当てもなくさまよう感覚を示唆する語として受け止められてきた(語義は文脈依存で諸説あり)。反復される呼びかけは、運命への諦念と皮肉を同時に響かせ、ディセポロ特有の冷徹な観察眼を際立たせる。情緒的な嘆きというより、社会の機能不全を炙り出す辛辣な言葉の連鎖が特徴で、短いフレーズの連打がメロディの下降感と結びつき、虚無の実感を増幅する。
歴史的背景
1929年前後は世界恐慌の余波がリオプラタ圏にも及び、都市の失業や階級間の緊張が高まった時期。タンゴは舞踏音楽から歌を中心とした表現へと深化し、都市生活者の不安や皮肉を担う器となった。ディセポロは同時代の実感を鋭利な言葉で定着し、後年の「Cambalache」へ続く社会批評的タンゴの系譜を確立。本作はその重要な起点として位置づけられる。
有名な演奏・映画での使用
代表的な録音としてカルロス・ガルデルの歌唱が名高く、その後も数多の歌手やオルケスタがレパートリーに加えてきた。低音域を生かした重厚な解釈から、テンポを落として言葉を際立たせる前衛的アプローチまで、演奏解釈の幅が広い点も特徴。映画での具体的な使用作品名は情報不明。
現代における評価と影響
「YIRAYIRA」はタンゴの標準曲として教育現場やコンサートで頻繁に取り上げられる。歌手には明瞭なディクションと語り口、伴奏には歌詞のアイロニーを支える陰影あるダイナミクスが求められ、学習素材としても優れている。今日でも社会風刺の普遍性が失われず、異文化圏でも“冷笑と諦観の詩学”として共感を呼び続ける。
まとめ
ディセポロの「YIRAYIRA」は、タンゴが都市の現実を映す鏡であることを示す象徴的作品。簡潔な語彙で社会の冷酷さを抉り、メロディとリズムが言葉の辛辣さを支える。歴史的背景と密接に結びつきながら、現代にも通用する洞察を備えた不朽の一曲である。