松井 須磨子
ゴンドラの唄
- 作曲: 中山 晋平

ゴンドラの唄 - 楽譜サンプル
ゴンドラの唄|歌詞の意味と歴史
基本情報
「ゴンドラの唄」は、中山晋平が作曲した大正期の流行歌。作詞は吉井勇、1915年に発表とされる。異国情緒を帯びたタイトルに対し、旋律は端正で覚えやすく、和声は素朴ながら陰影に富む。のちに映画や舞台で再評価され、日本の近代ポピュラー音楽史を語る上で欠かせない一曲として位置づけられている。
歌詞のテーマと意味
歌詞は、人の命のはかなさを見つめつつ、今を生きよと促す思想で貫かれる。広く知られる冒頭のフレーズは、逡巡より行動を選ぶ生の肯定を象徴。恋を手がかりにしながら人生観へと射程を広げ、哀愁を帯びた旋律がその情念を静かに支える。比喩と反復を生かした語り口が、時代を超えて共感を呼んできた。
歴史的背景
本作が生まれた大正期は、都市文化の成熟と西洋音楽の受容が加速した時代。唱歌や演劇由来の歌が大衆に広がり、流行歌の市場が形づくられていく。中山晋平は簡潔な旋律に日本語の韻律を自然に乗せる手腕で頭角を現し、「ゴンドラの唄」もその潮流の中で広く親しまれた。
有名な演奏・映画での使用
1952年の黒澤明監督『生きる』で、主人公が静かに口ずさむ場面は映画史的名場面として知られる。老いと死を見据えた独白に近い歌唱が歌の思想を可視化し、世代を超えて曲名を定着させた。その後も多くの歌手や合唱団が再演・録音を重ね、テレビや舞台での引用も多い。原曲を尊重しつつテンポや編成を変えたアレンジが存在する。
現代における評価と影響
近年はサブスクや動画投稿を通じて若年層にも届き、クラシック寄りの編曲からジャズ風の解釈まで幅広く展開。印象的なフレーズは広告やエッセイでも参照され、文化的記憶として機能する。中山の旋律設計と吉井の簡潔な言葉運びは、現代の作り手にも示唆を与えている。
まとめ
「ゴンドラの唄」は、はかなさと生の肯定を同時に掴む普遍の歌。映画による再文脈化を経ても核心は揺らがず、世代ごとに新しい意味を生み続けている。資料面で情報不明の点があっても、曲の存在感は不変。これからも多彩な演奏で歌い継がれるだろう。