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Mack The Knife/Moritat

  • 作曲: WEILL KURT
#スタンダードジャズ
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Mack The Knife/Moritat - 楽譜サンプル

Mack The Knife/Moritat|楽曲の特徴と歴史

基本情報

本作は、クルト・ヴァイルが1928年の舞台『三文オペラ(Die Dreigroschenoper)』のために書いた挿入歌「モリタート(辻歌)」に由来する。原題は「Moritat von Mackie Messer」。街の語り部が凶悪犯マッキーの悪行を淡々と歌い上げる構図で、英語圏では「Mack the Knife」として広く知られる。舞台歌として生まれながら、その旋律と構成の普遍性から、後にジャズ・ヴォーカル/コンボの定番曲へと発展した。

音楽的特徴と演奏スタイル

旋律は覚えやすい分節句を積み重ねるストローフ形式。原曲は行進曲風の脈動を持つが、ジャズでは4ビートのスウィングで解釈されることが多い。テンポは中庸からやや速め、シンコペーションとバックビートのアクセントが歌の諧謔性を引き立てる。ヴォーカルものでは各コーラスで歌詞の情景が進み、終盤に向けて段階的な転調やキメを加えクライマックスを作る編曲が広く採用されている。インストではリフの受け渡しとソロ回しでストーリー性を補完する。

歴史的背景

ワイマール期ドイツの社会風刺を掲げた『三文オペラ』は、資本主義と道徳の偽善を暴く作品として成功を収めた。モリタートは広場で犯罪譚を歌う伝統的な語り物で、本曲はその形式を踏襲する。1954年にはマーク・ブリッツスタインによる英語訳詞版が登場し、英語圏での普及に弾みがついた。以後、舞台/映画版を通じて各国語に広がり、ジャズ界でもレパートリー化が進む。

有名な演奏・録音

代表的録音として、ルイ・アームストロング(1955)がスウィング的解釈で人気を博し、ボビー・ダーリン(1959)は鮮烈な転調とビッグバンド・アレンジで全米チャート首位を獲得、翌年のグラミー賞レコード・オブ・ザ・イヤーを受賞した。エラ・フィッツジェラルドは1960年ベルリン公演で即興スキャットを交えた名唱を残し、以後の歌唱様式に大きな影響を与えた。1931年の映画『三文オペラ』でも印象的に用いられている。

現代における評価と影響

今日では、ヴォーカル志望者の教材曲として、またセッションでの共通言語として定着している。舞台起源の楽曲がジャズ・スタンダードへ転化する典型例として音楽史的価値が高く、歌詞の物語性とスウィングの推進力が共存する希有なレパートリーだ。編曲の自由度が高く、スモール・コンボからビッグバンド、キャバレー的演出まで幅広く適応する。

まとめ

『Mack The Knife/Moritat』は、社会風刺の歌として生まれ、ジャズの語法で再発見された作品である。時代と国境を越え、多様な解釈を許容する懐の深さが、現在も演奏され続ける最大の理由だ。