Samba Em Preludio
- 作曲: AQUINO BADEN POWELL

Samba Em Preludio - 楽譜サンプル
Samba Em Preludio|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Samba Em Preludio」は、ギタリストAQUINO BADEN POWELL(通称バーデン・パウエル)の作曲、詩人Vinicius de Moraesの作詞によるブラジル発の名曲。ポルトガル語表記は“Samba em Prelúdio”。ボサノヴァ/サンバ・カンソンの系譜にありながら、ジャズ・シーンでも広く演奏されるスタンダードとして定着している。歌詞は存在するが、楽曲自体は器楽演奏でも高く評価される。
音楽的特徴と演奏スタイル
陰影の濃い短調感と、自由なテンポで始まる“プレリュード”風の序奏が特徴。やがて柔らかなサンバ・グルーヴへ移行し、下降型のベース進行と精緻な和声が切なさを強調する。二人のメロディが独立して絡み合う対位法的デュエットは本曲の象徴で、声と声、あるいは声とコントラバスなど少人数編成でも映える。ギターの分散和音と低音オスティナートが、内省的で密度の高い空間を生む。
歴史的背景
1960年代前半、バーデン・パウエルはヴィニシウスとともに数々の名曲を生み、リオの音楽界に新機軸をもたらした。本曲もその文脈に位置づけられ、洗練された和声語法とサンバの拍節感、そしてポエジー豊かな歌詞が結晶している。ボサノヴァの国際的拡大期にあたり、リスナーと演奏家の双方に強い支持を得て、以後のジャズ/ワールド音楽のレパートリーへと定着した。
有名な演奏・録音
作曲者バーデン・パウエル自身のさまざまな録音に加え、多くのブラジル歌手とジャズ奏者が取り上げてきた。なかでも、Esperanza SpaldingとGretchen Parlatoによるデュオは、声部のカウンターポイントを鮮やかに示す名演として知られる(Spaldingのアルバム『Esperanza』に収録)。近年はギター・デュオやベース&ボーカル編成など、室内楽的アプローチでの解釈も増えている。
現代における評価と影響
高度なハーモニー運用と旋律の独立性は、ジャズ教育や音楽院の実技課題としてもしばしば採用される。歌詞は喪失と渇望、愛の不在をめぐる内面のモノローグを描き、二重唱部では“二人の独白”が同時進行する比喩として機能する。結果として、ボサノヴァの叙情と室内楽的緊張感を併せ持つ作品として、世代やジャンルを超えて演奏され続けている。
まとめ
サンバの脈動と知的な対位法、詩的世界が一体となった稀有のスタンダード。編成やテンポの自由度が高く、ソロからデュオ、アンサンブルまで多様な表現が可能だ。初学者には難曲だが、音楽的達成度と感情の深さで報われる一曲と言える。