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Coming On The Hudson

  • 作曲: MONK THELONIOUS S
#スタンダードジャズ
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Coming On The Hudson - 楽譜サンプル

Coming On The Hudson|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Coming On The Hudsonは、セロニアス・モンクによるインストゥルメンタルのジャズ曲。歌詞は存在しない(作詞者情報不明)。初録音は1958年、ニューヨークのファイブ・スポット・カフェでのライヴを収めたRiverside盤『Thelonious in Action』で確認できる。モンク特有の個性的な旋律と和声が凝縮されたレパートリーの一つで、後年のモンク作品集やライヴ録音にも再収録され、彼の作曲美学を理解するうえで重要な位置を占める。曲の正式な出版年や初演の詳細なクレジットは情報不明で、キーや標準的な譜面形態も録音や版によって差異がある。

音楽的特徴と演奏スタイル

旋律は跳躍を伴う角ばったラインと、意図的な間(休符)の活用が特徴。半音階的な接近や全音的な響きを想起させる進行、硬質で立体的なヴォイシングがモンクらしさを強調する。テーマのアクセント配置はシンコペーションを多用し、拍の裏に重心を置くことで独特の推進力が生まれる。即興では短い動機を反復・変形し、音数を絞るフレージングと突然の和声的クランチを対比させる語法が効果的。ピアノ・トリオやサックスを含むカルテットでの演奏が一般的で、コンピングは空白と鋭いアタックを行き来する。テンポやエンディング処理は編成と解釈に依存し、録音ごとにニュアンスが異なる。

歴史的背景

本曲は、モンクがニューヨークで評価を大きく高めた時期、ファイブ・スポットでの濃密なライヴ活動と並走して生まれ、彼のレパートリーに定着していった。1958年の『Thelonious in Action』は、当時のクラブ現場の熱気と緊張感をそのまま封じ込めた記録であり、本曲の構造的な面白さ—テーマと即興の境界が有機的に交差する設計—がよく伝わる。タイトルの由来は情報不明だが、都市の景観や移ろいを想起させる抽象性は、当時のモダン・ジャズの美学とも響き合っている。

有名な演奏・録音

基準となる音源はRiversideレーベルのライヴ盤『Thelonious in Action』(1958, Five Spot Café, NYC)。この録音では、テーマの間合いと伴奏の切れ味が鮮明で、モンク作品解釈の教科書的参照点となる。その後もモンク関連のアンソロジーやボックスセット(Riverside期のコンピレーション等)で再収録され、アクセスしやすい。映画やテレビ等の商業使用については情報不明。各演奏家によるテンポ設定やイントロ・アウトロの処理の違いを聴き比べると、楽曲の設計が持つ可塑性が見えてくる。

現代における評価と影響

Coming On The Hudsonは、モンク語法—間の美学、非機能的和声の配置、アクセントのずらし—を学ぶ題材として音楽教育の現場でも扱われることがある。むやみに音数を増やさず動機を研ぎ澄ますという即興の姿勢を求める点で、学習者と熟練者の双方に示唆が多い。アンサンブルではテーマの呼吸と伴奏の反応性が鍵となり、ピアニストのみならず管・リズム隊にも高度な聴き合いを要求する。結果として、本曲は「モンクをモンクらしく演じる」ためのリトマス試験紙の役割を果たしている。

まとめ

本曲は、セロニアス・モンクの作曲美学を凝縮したインストゥルメンタルであり、1958年のライヴ録音を通じてその個性が広く共有された。角張った旋律、空白の活用、和声の独自性は、現在も演奏と研究の両面で参照され続けている。正式な出版年やタイトル由来は情報不明だが、録音を丹念に聴き込み、アクセントと間合いを体得することで、曲の核にある緊張と余白のバランスが立ち上がる。まずは『Thelonious in Action』を基準に、解釈の幅を感じ取ってほしい。