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Crepuscule With Nellie

  • 作曲: MONK THELONIOUS S
#スタンダードジャズ
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Crepuscule With Nellie - 楽譜サンプル

Crepuscule With Nellie|楽曲の特徴と歴史

基本情報

Crepuscule With Nellie(クレパスクル・ウィズ・ネリー)は、ジャズ・ピアニスト/作曲家セロニアス・モンクによる作品。題名の“Crepuscule”は黄昏の意で、妻ネリー(Nellie)への献呈曲として知られる。初出はRiversideレーベル期の録音で、一般には1957年の発表作として認知されている。歌詞は存在せず純然たる器楽曲で、モンクのレパートリーの中でも特に「書かれた音」を重視する点が特徴的だ。

音楽的特徴と演奏スタイル

本曲はジャズでは稀有なほどスルーコンポーズ(通作)に近い設計で、作曲者本人が即興を控える意図を示した記録で知られる(詳細は資料により異なるため厳密な指示内容は情報不明)。モンク特有の全音階的進行、半音階的な導音処理、短二度や三全音を含む和声音のぶつかり、シンコペーションとブレイクの配置が緊張感を生む。テンポはバラード寄りだが、儚さと鋭さが同居するフレージングが求められ、アドリブ以上にアーティキュレーションとヴォイシングの精度が鍵となる。編成はソロ・ピアノから小編成、ホーンを含むアンサンブルまで幅広く演奏される。

歴史的背景

1950年代後半、モンクは独自語法を結晶化させ、多くの代表作を残した。「Crepuscule With Nellie」は、私的献呈を冠しながら、ジャズにおける作曲と演奏の境界を問い直す設計で注目を集めた。標準的なテーマ—アドリブ—テーマという枠組みを相対化し、作曲そのものの強度で聴かせる姿勢は、当時のハード・バップ的即興偏重への批評性も帯びる。制作の詳細動機には諸説があるが、確実に言えるのは、モンクが本曲に高度な記譜的コントロールを込め、解釈の精緻さを求めた点である。

有名な演奏・録音

代表的録音として、Riversideのアルバム「Monk’s Music」(1957年)収録のテイクが広く知られる。ジョン・コルトレーンやコールマン・ホーキンスらを擁したセプテット編成で、書法の緻密さと管楽器の色彩が相まって楽曲の骨格が明瞭に示される。スタジオには複数テイクが存在することも知られ、フレージングやブレイクの扱いが比較検討の対象となる。以後、多くのピアニスト/小編成コンボがレパートリーに取り入れ、演奏資料や楽譜集にも定着している。

現代における評価と影響

本曲は、モンク作品の中でも「即興の自由度」より「記譜の精密さ」を学べる教材として、教育現場やワークショップで参照される機会が多い。和声の省略と衝突、休符の dramatic な機能、フォームの分節の明確化など、アレンジやアンサンブル指導に直結する示唆が豊富だ。結果として、ジャズ・スタンダードでありながらクラシカルなアプローチでも映える稀有なレパートリーとして、今日も演奏機会が絶えない。

まとめ

「Crepuscule With Nellie」は、妻への献呈という私的動機と、作曲の厳密さを前面に出す公的な美学が交差するモンク屈指の名曲である。黄昏の静謐を湛えつつ、音価・和声・ブレイクの一音一句に意味を宿す本曲は、即興中心のジャズにあって作曲の力を示す標石的存在と言える。入門者には「Monk’s Music」のテイクからの鑑賞を、演奏者には原型の語法を尊重したうえでの音色と間の探究を勧めたい。