In A Mist
- 作曲: BEIDERBECKE LEON BISMARCK BIX

In A Mist - 楽譜サンプル
In A Mist|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『In A Mist』は、Bix Beiderbecke(本名:Leon Bismarck “Bix” Beiderbecke)によるピアノ独奏曲。1927年に自作自演の録音が残され、管楽器奏者として名高い彼の作曲・ピアノの資質を示す代表作として知られる。ジャンルはジャズだが、クラシックの印象主義的語法を取り込んだ混交的なスタイルが特徴。初演場所・出版社・初版年は情報不明。
音楽的特徴と演奏スタイル
形式は標準的なAABA型ではなく、モチーフ展開と転調を重ねる小品的なスルーコンポーズに近い。和声は全音音階や並行和音、半音階的進行を多用し、機能和声に縛られない色彩感を生む。左手はストライド由来の跳躍と分散和音が交錯し、右手はレガートの旋律と分厚いヴォイシングを行き来。テンポは中庸で、ルバートの呼吸とペダリングのコントロールが表現の鍵となる。
歴史的背景
1920年代のシカゴ/ニューヨークで活躍したコルネット奏者ベイダーベックは、耳で学んだ和声感とドビュッシーやラヴェルからの影響で独自の作風を築いた。『In A Mist』はその結晶で、ジャズと近代和声の接点を示す試みとしてしばしば言及される。同時期のピアノ小品として『Candlelights』『Flashes』『In The Dark』が知られるが、本人による本格的なソロ録音が残るのは本作のみとされる。
有名な演奏・録音
もっとも権威ある基準は、作曲者本人による1927年のピアノ・ソロ録音で、解釈・テンポ設定・ペダリングの指針となる。以降、多数のジャズ・ピアニストが独奏版やアンサンブル編曲で録音し、コンサートのアンコール曲としてもしばしば取り上げられてきた。特定の代表的再録音のディスコグラフィ情報は情報不明。
現代における評価と影響
『In A Mist』は、境界横断的な和声感とジャズ的スウィングの融合例として評価され、音楽史やジャズ研究の文脈で参照されることが多い。ピアノ学習者にとっては、色彩的和声の配置、タッチのコントロール、フレージングの呼吸を学ぶ上で格好の教材となりうる。出版譜の版差や原録音の正確な採譜については資料により見解が分かれるため、校訂情報は情報不明。
まとめ
ジャズの語法に印象主義的和声を折衷した『In A Mist』は、ベイダーベックの作曲家としての視座を最も純度高く伝える作品である。自由度の高い構成と繊細な音色設計が、即興性と書法のあわいを照らし出す。本作に触れることは、20世紀初頭のアメリカ音楽が歩んだ多層的な発展過程を俯瞰する手がかりとなるだろう。