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Lost

  • 作曲: SHORTER WAYNE
#スタンダードジャズ
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Lost - 楽譜サンプル

Lost |楽曲の特徴と歴史

基本情報

Lost は、サックス奏者・作曲家ウェイン・ショーターによるインストゥルメンタル作品。初出はBlue Noteのアルバム『The Soothsayer』に収録(1965年録音、1979年発売)とされ、ショーターの60年代中期を象徴するポスト・バップ期の1曲である。楽曲の正式な調性や拍子、標準テンポは情報不明だが、ショーター作品にしばしば見られる曖昧なハーモニー運用と、明確な機能和声から意図的に距離を置く設計が核にある。歌詞は存在せず、演奏者の即興とアンサンブルの呼応が主眼となる。

音楽的特徴と演奏スタイル

旋律は簡潔ながら印象的な動機で構成され、和声中心がふと揺らぐような進行と相まって“迷宮感”を醸成する。コードはモーダルな停滞と半音階的推移が交錯し、ソリストは明確な着地点よりもラインの推進力や音色の変化でドラマを作ることが多い。リズム・セクションは4ビートを基調に、シンコペーションやポリリズム的な重なりで空間を広げ、ピアノはヴォイシングの省略と密度の対比で緊張と解放を描く。テーマ提示後は自由度の高いアドリブへ移行し、再現部で凝縮させる演奏設計が親しまれている。

歴史的背景

制作期のショーターは、Blue Noteでのリーダー作と並行して、マイルス・デイヴィスの“第二期クインテット”でも活動。ポスト・バップの語法を拡張し、構造的な実験と歌心の均衡を追求していた。『The Soothsayer』は1965年に録音されつつも発売は1979年と遅れたが、この時期の作曲群はのちのジャズ語法に大きな影響を与え、Lost も同文脈で再評価が進んだ。作品は、ハード・バップからモーダル、さらには自由度の高い即興へと開かれる過渡期の美学を映している。

有名な演奏・録音

基準となるのは、アルバム『The Soothsayer』収録の演奏である。ショーターのテナーを軸に、鋭敏なリズム・セクションとフロントの対話が、楽曲の曖昧性を推進力へ転化している。公式に広く知られる他の代表的録音や映画・テレビでの使用情報は情報不明。とはいえ、ショーター作品をレパートリーとする現代ジャズ奏者により、ライブ・セットで取り上げられることがある。音源探索の出発点としては、Blue Note盤のオリジナル・テイクが最も確実だ。

現代における評価と影響

Lost は、ショーター特有の“余白”と“不可思議な必然性”を凝縮した小品として評価される。明快な機能和声から離れつつも表情は豊かで、アドリブの語彙やフォーム感を再考させる教材的価値が高い。音楽大学やワークショップでショーターの作曲法を扱う際、本曲のような曖昧性の扱いがしばしば議題となる。結果として、作編曲や即興における発想の拡張、インタープレイの設計術に実践的示唆を与える楽曲として支持を集め続けている。

まとめ

Lost は、簡潔な素材で豊かな余韻を生むショーターの作曲美学を体現する1曲。明確なハーモニーの道筋を示し過ぎないことで、演奏者の選択と相互作用を前景化する。初聴は『The Soothsayer』の演奏を拠り所に、テーマの輪郭と和声のゆらぎ、リズムの呼吸を耳で捉えるのがおすすめだ。情報不明部分は残るものの、作品の核となる魅力は“曖昧さの表現力”にある。現代ジャズの感性で再演し得る柔軟さも、本曲の価値を長く支えている。