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Mademoiselle Mabry

  • 作曲: DAVIS MILES
#スタンダードジャズ
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Mademoiselle Mabry - 楽譜サンプル

Mademoiselle Mabry|楽曲の特徴と歴史

基本情報

1968年、コロムビアから発表されたアルバム『Filles de Kilimanjaro』収録のインストゥルメンタル。演奏はMiles Davis(tp)、Wayne Shorter(ts)、Chick Corea(el-p)、Dave Holland(b)、Tony Williams(ds)。プロデュースはTeo Macero。曲名は当時のパートナーだったBetty Mabry(後のBetty Davis)にちなむ。収録時間は約16分で、作品末尾を飾る長編トラックとして知られる。

音楽的特徴と演奏スタイル

ゆったりしたテンポと反復的なヴァンプを基調に、トランペットとサックスが余白を生かしてモチーフを展開。フェンダー・ローズ系のエレクトリック・ピアノが和声の陰影を作り、ドラムは繊細なダイナミクスで長尺の推進力を支える。和声進行はジミ・ヘンドリックス「The Wind Cries Mary」に由来すると広く言及され、ブルースとモーダルの感覚が滑らかに溶け合う。主題提示と即興が有機的に往還し、時間の流れ自体がドラマとなる設計だ。

歴史的背景

本作はアコースティックな第二期クインテットからエレクトリック期へ向かう過渡期の産物。1968年にはデイヴ・ホランド、チック・コリアが加入し、バンドの音色は一気に近代化した。ベティ・メイブリーの存在は、デイヴィスがロックやファンクの最新感覚に接近する契機として語られ、曲名にもその関係が刻まれている。アルバム全体としても、後年の電化サウンドへ至る美学と発想が萌芽的に示されている。

有名な演奏・録音

決定的な演奏はオリジナル・スタジオ録音で、アルバムの大団円を担う長編トラックとして評価が高い。後年、各種リマスターやボックス・セットで再発され、音像の解像度も改善。ライヴでの公式音源は多くは知られていないが、研究や批評でしばしば参照される代表的テイクといえる。スタジオ内の空間性、各楽器の定位、長尺構成の呼吸感が、本曲の価値を決定づけている。

現代における評価と影響

穏やかなグルーヴと電気楽器のテクスチャ、長尺のフォームは、翌年の『In a Silent Way』や後続のエレクトリック期を先取りする要素として位置づけられる。ジャズとロックの語彙を衝突させず並置する手法は、以降のフュージョン文脈や現代ジャズの作法にも影響を与えたと評価される。特にサウンドの間合いと色彩の設計は、即興とプロダクションの交差点を示す重要な事例だ。

まとめ

「Mademoiselle Mabry」は、抑制と余白、微細な色彩変化で聴かせるデイヴィス流モダニズムの到達点。個々の名手の音が空間に配置され、緊張と緩和が長い弧を描く。ロック由来の感覚を取り込みつつジャズの語法で再編した本曲は、電気化の序章を刻んだ重要作として現在も鮮度を保ち続けている。