Venus De Milo
- 作曲: MULLIGAN GERRY

Venus De Milo - 楽譜サンプル
Venus De Milo|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Venus De Miloは、バリトン・サックス奏者で作曲家のジェリー・マリガンが手がけたインストゥルメンタル。初演・初録音は1949年、マイルス・デイヴィスのノネットによるキャピトル録音で、後に編集盤『Birth of the Cool』に収められて広く知られるようになった。曲名はルーヴル美術館のミロのヴィーナスに由来し、クール・ジャズ潮流を象徴するレパートリーの一つとして位置づけられる。
音楽的特徴と演奏スタイル
軽やかなスウィング感と緻密なアンサンブルが核。トランペット、トロンボーン、アルトサックス、バリトンサックス、フレンチホルン、チューバという独特の編成が柔らかなブレンドを生み、主題と対旋律がカウンターポイント的に絡み合う。ダイナミクスは抑制的で、アタックを丸くまとめた音色が全体を包む。ソロは過度に熱を帯びることなく、メロディと和声の流れを尊重して展開され、アレンジと即興が有機的に結びつく点が聴きどころ。
歴史的背景
1940年代後半、ニューヨークではビバップのエネルギーを保ちつつ、編曲と音色、バランスを重視する“クール”な志向が芽生えた。マリガンはその中心人物の一人で、本作でも作曲とオーケストレーションの両面で才能を発揮。1949〜50年のノネット録音群は当初は78回転盤として分散して発表され、1957年に『Birth of the Cool』としてLP化されると、後続世代に決定的な影響を与えた。
有名な演奏・録音
もっとも知られた音源は、マイルス・デイヴィス・ノネットの1949年キャピトル録音である。以後、マリガン自身の各種編成でも再演が行われ、コンサートや放送音源を含む複数の録音が残る(詳細は情報不明)。リイシューやボックスセットの普及により、同曲は“クール派”を代表する定番トラックとして参照され続けている。
現代における評価と影響
アレンジ重視の小編成ジャズを学ぶ上で格好の教材とされ、音域配分、対位法、ダイナミクス設計のモデルとして研究されることが多い。ビッグバンドやリード合奏への再編曲も盛んで、音色のブレンド感や抑制された表現は、現代の室内楽的ジャズにも通じる美学として共有されている。
まとめ
Venus De Miloは、マリガンの作曲センスとノネットの独創的サウンドが結晶した一篇であり、クール・ジャズの理念を端的に示す。過剰な誇張を避け、構築美で魅せる本作は、今なお新鮮な輝きを放つ。