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Spring Is Here
- 作曲: RODGERS RICHARD

Spring Is Here - 楽譜サンプル
Spring Is Here|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Spring Is Here」はRichard Rodgers作曲、Lorenz Hart作詞によるバラード。1938年のブロードウェイ・ミュージカル『I Married an Angel』で発表され、その後ジャズ・スタンダードとして定着しました。タイトルは春の到来を示しつつも、歌詞は喜びに満たされない心情を描く逆説的な内容で知られます。楽曲はボーカル曲として書かれましたが、ハーモニーの美しさと叙情性からインストゥルメンタルでも頻繁に演奏され、幅広い解釈に耐える名曲として評価されています。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかなテンポのバラードで、柔らかなメロディと豊かな和声進行が核。内省的な旋律線は長いフレーズで息遣いを求め、ボーカリストには繊細なダイナミクスと語るようなレガートが求められます。ジャズ演奏では、自由なルバートのイントロや、テンポを揺らすラルゴなアプローチが好まれ、終盤でわずかに推進力を加える構成も一般的。ピアニストは内声の動きやサブスティテュートを用いて色彩を深め、ホーン奏者はビブラートやスムーズなスライドで陰影を与えます。
歴史的背景
ロジャース&ハートは1930年代後半、洗練された都会的センスと感傷を併せ持つ作品を多く残しました。本曲もその系譜にあり、春の訪れという明るい題材に対し、心が踊らない孤独を対置するハートの詩作が光ります。舞台発表後まもなく歌手やジャズ・ミュージシャンに取り上げられ、戦後の録音技術の発展とともに名唱・名演が蓄積。20世紀半ばにはスタンダード集の定番曲として広く浸透しました。
有名な演奏・録音
代表的な名唱として、エラ・フィッツジェラルド『The Rodgers and Hart Songbook』(1956)が挙げられ、明晰な発音と端正なフレージングで作品の品位を示しました。フランク・シナトラ『Where Are You?』(1957)ではゴードン・ジェンキンスのアレンジが陰影を深め、孤独のニュアンスを際立てます。インストゥルメンタルではビル・エヴァンス・トリオ『Portrait in Jazz』(1959)が内省的なボイシングで楽曲の和声美を掘り下げ、後続のピアニストに大きな影響を与えました。ほかにも多数の歌手・奏者がレパートリー化しています。
現代における評価と影響
「Spring Is Here」は、感情の陰影とハーモニーの豊かさを両立する教材として音楽教育現場でも重宝され、ボーカル・ジャズの解釈力やバラードの表現技法を磨く好例とされています。ジャム・セッションではテンポを極端に上げず丁寧に語る演奏が尊ばれ、編曲次第で室内楽的にもオーケストラ的にも映える柔軟性が評価の要因です。ストリーミング時代でも定番プレイリストに収まる頻度が高く、世代を超えて聴かれ続けています。
まとめ
1938年初演の「Spring Is Here」は、春というモチーフに対する逆説的な感情表現と、洗練されたハーモニーが結びついた傑作バラードです。名歌手・名手の解釈を通じて磨かれ、今日ではボーカル、器楽の双方で不可欠なスタンダードへと成熟しました。歌詞の全文はここでは紹介しませんが、孤独を纏う詩情と音楽が共鳴する本曲は、今なお新たな表現を誘発し続けています。