This I Dig Of You
- 作曲: MOBLEY HANK

This I Dig Of You - 楽譜サンプル
This I Dig Of You|楽曲の特徴と歴史
基本情報
ハンク・モブレー作曲のインストゥルメンタル曲「This I Dig Of You」は、1960年録音の名盤『Soul Station』(Blue Note)に収録。テナー・サックス=ハンク・モブレー、ピアノ=ウィントン・ケリー、ベース=ポール・チェンバース、ドラムス=アート・ブレイキーというカルテットによる演奏がオリジナルで、ハード・バップ期を代表する1曲とされる。楽曲の調性やフォームの詳細は情報不明だが、セッション現場で親しまれるジャズ・スタンダードとして定着している。
音楽的特徴と演奏スタイル
テーマはブルース由来のフレーズ感とスウィングの推進力が特徴。なめらかなレガートと切れのよいアクセントを交えたモブレーの歌心あるアドリブが映え、リズム・セクションはケリーの軽やかなコンピングとチェンバースの堅実なウォーキング、ブレイキーのダイナミックなシンバル・ワークで支える。構成はハード・バップの定石であるテーマ提示—各ソロ—テーマ回帰というシンプルな枠組みで、ソロの語り口やインタープレイの妙が際立つ。オリジナル録音はミディアムからやや速めのテンポで、明瞭なメロディとグルーヴの両立が聴きどころ。
歴史的背景
1960年前後は、ビ・バップ語法を土台にソウルフルな感覚を取り入れたハード・バップが成熟した時期。ブルーノートの録音拠点であるルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ(ニュージャージー州)で制作された『Soul Station』は、その高品位な音響とともにモブレーの抒情性とスウィング感を結晶化したアルバムとして知られる。本曲も同文脈で生まれ、キャッチーなテーマと実直なビートが当時のクラブ・シーンやラジオでも映える特性を備えている。
有名な演奏・録音
最も広く知られるのは、ハンク・モブレー・カルテットによるオリジナル録音(1960年2月7日、ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ収録、Blue Note『Soul Station』収載)。このテイクはモブレー円熟期の音色と、ケリー—チェンバース—ブレイキーの鉄壁リズム隊が作るタイム感を捉えた決定的録音として評価される。以降、同アルバムの再発やデジタル配信を通じて継続的に親しまれてきた。他アーティストによる代表的録音の網羅は情報不明だが、教育現場やセッションで取り上げられる機会は多い。
現代における評価と影響
今日、本曲はモブレーの作曲術とテナー奏者としての美質を端的に示すレパートリーとして評価される。過度な技巧誇示ではなく、旋律とグルーヴで魅せるバランスが幅広い聴き手に届き、ジャズ入門にも適する一方、フレージングやスウィングの置き方など高度なニュアンスを秘め、演奏者にとっては表現力を磨く教材となる。結果として、セッションの常套曲としての地位を保ちながら、世代を超えて演奏され続けている。
まとめ
「This I Dig Of You」は、ハード・バップ黄金期のエッセンスを凝縮した小品。端正なメロディとしなやかなスウィング、名手たちの相互作用が生むタイム感が魅力で、ジャズ史の重要な一ページを今も鮮やかに伝える。一度オリジナル録音を聴けば、その普遍性と聴き飽きない魅力の理由が実感できるはずだ。