SERGIO MENDES
Arrastão
- 作曲: DE MORAES VINICIUS,LOBO EDU,LOBO EDUARDO G

Arrastão - 楽譜サンプル
Arrastão|歌詞の意味と歴史
基本情報
Arrastãoは、作詞をヴィニシウス・ヂ・モライス、作曲をエドゥ・ロボが担った1965年のブラジル音楽(MPB)を代表する楽曲。ポルトガル語のタイトルは「地引き網」を意味し、海と漁をモチーフにした象徴的なイメージで知られる。初演として広く記憶されるのは、エリス・レジーナが1965年のテレビ音楽祭で披露したステージで、以後彼女の代表曲の一つとなった。ジャンルはボサノヴァ以後の新潮流であるMPBに位置づけられ、リズム面・表現面ともに劇的な昂揚感を備える。
歌詞のテーマと意味
歌詞は、海原を前に共同で網を引く漁師たちの姿を軸に、自然への畏敬、労働の連帯、そして実りへの期待を描く。海に星が降るような比喩や、網にかかる豊穣のイメージは、欠乏から恵みへと転じる瞬間の力強さを示し、集団の力と希望を喚起する。主人公の声は独白と呼びかけを行き来し、個の感情が共同体の高揚へと拡大していく構造をとる。宗教的・民俗的な語彙の直接的言及は解釈により異なるが、楽曲全体は自然と人間の営みの円環を肯定的に歌い上げる。なお、歌詞の全文はここでは紹介しない。
歴史的背景
1960年代半ばのブラジルは、ボサノヴァの静謐な室内楽的志向から、より社会性と舞台映えを伴うMPBへと重心が移る時期だった。テレビ局主催の音楽祭は新曲の発表とスター誕生の場となり、Arrastãoはその象徴的成功例である。1965年、エリス・レジーナの躍動的なボーカルとダイナミックなアレンジは、視聴者と審査員を圧倒し、フェスティバル文化の幕開けを告げた。作詞家モライスの詩的言語とロボの緊張感ある旋律・和声は、時代の要請に応える新しい大衆音楽の美学を示した。
有名な演奏・映画での使用
最も著名なのはエリス・レジーナによる1965年テレビ音楽祭でのパフォーマンスで、その後スタジオ録音も残されている。作曲者エドゥ・ロボ自身による演奏・録音も重要な参照点で、曲の骨格とブラジル的リズムの解釈を確認できる。ほかの歌手によるカバーの詳細な一覧は情報不明だが、MPB史の名曲として舞台・コンサートで繰り返し取り上げられてきた。映画やドラマでの使用については情報不明。
現代における評価と影響
Arrastãoは、テレビ音楽祭を通じて新曲が国民的ヒットとなるモデルを確立し、MPBの“フェスティバル時代”を象徴するスタンダードとして評価される。強靭なメロディと合唱的高揚を生む構成は、のちのコンテスト曲・ライブ演出の手本となり、歌手の表現力を最大化するレパートリーとして現在も歌い継がれている。学術的文脈でも、ボサノヴァ以後の転換点を示す事例としてしばしば言及される。
まとめ
海と労働、共同体の希望を力強く描くArrastãoは、モライスとロボの創造性が結実したMPBの金字塔である。1965年のエリス・レジーナの名唱がその地位を決定づけ、以後多くの舞台で再解釈されてきた。歌詞の象徴性と音楽的ダイナミズムは今なお鮮烈で、ブラジル音楽の歴史を語るうえで欠かせない一曲だ。