O Morro Não Tem Vez
- 作曲: JOBIM ANTONIO CARLOS

O Morro Não Tem Vez - 楽譜サンプル
O Morro Não Tem Vez|楽曲の特徴と歴史
基本情報
アントニオ・カルロス・ジョビン作曲のボサノヴァ標準曲。ポルトガル語詞が付く歌物で、題名は「丘(ファヴェーラ)には順番が回ってこない」の意。作詞はヴィニシウス・ヂ・モライス。別題「Favela」や英語詞版「Somewhere in the Hills」でも知られる。初出年は情報不明。
音楽的特徴と演奏スタイル
柔らかなボサノヴァの2拍系グルーヴに乗るしなやかな旋律と、ジョビンらしい豊かな和声進行が核。短調風の翳りと明暗の転調が物語性を生み、内声の動きや下降型のベースが印象的。歌唱では抑制的なダイナミクスと語るようなフレージング、器楽版ではリリカルな即興が映える。
歴史的背景
歌詞は都市の「丘」=ファヴェーラに生きる人々の疎外を描き、機会の不均衡への静かな抗議をにじませる。ボサノヴァが恋や風景を歌うことの多い中で、本作は社会的眼差しを帯びる点で特異。制作や初演の具体的な経緯、当時の受容の詳細は情報不明だが、1960年代ブラジルの空気を色濃く伝える。
有名な演奏・録音
重要録音としては、ジョビン自作自演の器楽版「The Composer of Desafinado, Plays」に収められた「Favela」が広く参照される(編曲はクラウス・オガーマン)。以後、英語詞版を含め多数の歌手・ジャズ奏者が録音し、クラブやセッションで定番化。映画での明確な使用例は情報不明。
現代における評価と影響
今日ではボサノヴァ/ジャズ双方のレパートリーとして定着し、洗練と社会性を併せ持つ“歌えるスタンダード”として評価される。和声とリズムの相互作用が学習素材としても有用で、歌手は発音とニュアンス、奏者はシンコペーションの間合いを磨く教材として取り上げる例が多い。
まとめ
繊細なサウンドと普遍的テーマを両立させた本曲は、ボサノヴァの幅広さを示す代表作。原題・別題を理解し、器楽版と歌物の両面から聴き込むことで、楽曲の奥行きが一層明らかになる。入門者にも熟練者にも聴き継がれる、時代を超えたスタンダードである。