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Five Brothers
- 作曲: MULLIGAN GERRY

Five Brothers - 楽譜サンプル
Five Brothers|楽曲の特徴と歴史
基本情報
Five Brothers は、バリトンサックス奏者・作編曲家ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)によるインストゥルメンタル曲。1949年にウディ・ハーマン楽団で録音され広く知られるようになった。クールジャズ興隆期の書法を体現し、サクソフォン・セクションの緻密なアンサンブルとアドリブ・ソロを両立させる設計が特徴である。演奏形態はビッグバンドから小編成まで幅広く、編成に応じて音色とダイナミクスの設計が変化する。初出版年や原調などの細部は情報不明だが、作曲者の声部処理とテクスチャの美学を示す代表作と位置づけられる。
音楽的特徴と演奏スタイル
同曲は軽快なスウィング感の中で、複数のサックスが平行的に動くユニゾン/ハーモニーと、対位法的に絡むラインが交互に現れる構成が核となる。テーマは端正なフレーズ運びを基調とし、短いリフ応答やブレイクで表情を切り替える。マリガンらしい低音声部の独立性が強く、バリトンサックスの推進力が全体を牽引。アンサンブルは音量を上げすぎず、透明感のある音色と精密なバランスが要点になる。多くの演奏で中速〜アップテンポのスウィングが選ばれ、ソロはサックス中心だが、編成によってトランペットやトロンボーンへ受け渡すアレンジも行われる。セクション内の発音統一、アーティキュレーションの整合、ダイナミクスの段階付けが完成度を左右する。
歴史的背景
第二次大戦後のアメリカでは、濃密なビバップから一歩引いた冷静で構築的な響きを志向する潮流が生まれ、ウディ・ハーマン楽団の“フォー・ブラザーズ”系サウンドや西海岸のクールジャズが台頭した。マリガンはその中心的人物の一人で、Five Brothers はサックス陣を主役に据えるコンセプトを拡張し、洗練されたテクスチャと線的書法で時代の要請に応えた作品である。大編成のパワーを保ちながら、旋律線の明晰さと声部の機能性を前面に置くアレンジは、後続のビッグバンドと室内楽的ジャズの両方向に影響を及ぼした。
有名な演奏・録音
代表的な音源として、1949年のウディ・ハーマン楽団による録音が挙げられる。以降、マリガン自身の大型アンサンブル(テンテットなど)でもたびたび取り上げられ、ビッグバンドの定番レパートリーとして定着した。教育現場向けのアレンジ譜も広く流通し、学生バンドからプロのオーケストラまで幅広く演奏される。映画やドラマでの使用情報は情報不明だが、コンサート・プログラムでの採用頻度は高く、サックス・セクションの見せ場として重宝されている。
現代における評価と影響
今日では、クールジャズ的書法を学ぶ教材としての価値が高く評価される。特に、対位法的ラインの扱い、低音声部の機能的デザイン、音量を抑えた中でのダイナミクス設計など、アレンジ/作曲の視点で研究対象となる要素が多い。ビバップの厚みある即興とは異なる“線の美学”を提示し、アンサンブル力と音色設計の重要性を示す例として参照される機会が多い。結果として、ビッグバンドと小編成ジャズの橋渡しを担う重要曲として、現場・教育双方で息長く支持されている。
まとめ
Five Brothers は、サクソフォン陣の魅力を最大化する設計と冷静で洗練された質感が光るマリガンの名作である。1949年の録音を嚆矢に、現在まで幅広い編成で演奏され続け、クールジャズの美学とアンサンブルの規範を示すジャズ・スタンダードとして定位置を占めている。