O cantador
- 作曲: CAYMMI DORIVAL TOSTES (JUN),MOTTA FILHO NELSON CANDIDO

O cantador - 楽譜サンプル
O cantador|楽曲の特徴と歴史
基本情報
O cantador(ポルトガル語で「歌い手」の意)は、作曲家Dori Caymmi(本名Dorival Tostes Caymmi)と作詞家Nelson Mottaによる楽曲。原詞はポルトガル語で、英語版「Like a Lover」(英語詞:Alan & Marilyn Bergman)としても広く知られる。発表年は情報不明だが、国際的な認知は1960年代後半に高まった。ジャンル的にはMPB/ボサノヴァの系譜に属し、現在ではジャズのレパートリーとしても定着している。
音楽的特徴と演奏スタイル
穏やかなテンポと柔らかなシンコペーションを基調に、テンションを多用したリッチな和声が魅力。コード進行は内声の滑らかな半音進行を伴い、ボサノヴァらしい浮遊感とジャズ的な拡張性を両立する。メロディはレガート志向で音域の跳躍は控えめ、語り口のようなフレージングが映える。演奏面では、ナイロン弦ギターやピアノを核に、ブラシを使ったドラム、控えめなパーカッション、時にストリングスや木管で色彩を加えるアレンジが好相性。ヴォーカルは子音の粒立ちと母音の伸びを丁寧に扱い、微細なダイナミクスとルバートで余情をつくるのが効果的である。デュオから小編成まで編成適応性が高く、キーの移調にも耐性がある。
歴史的背景
1960年代後半、ボサノヴァの国際的成功を背景に、ブラジルではMPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)が台頭した。作曲家・編曲家として多方面で活躍したDori Caymmiと、ジャーナリスト/プロデューサー/作詞家のNelson Mottaは、この時期を象徴するコラボレーションを重ね、O cantadorもその重要曲のひとつとして位置づけられる。英語圏での普及は、ブラジル音楽を世界に架橋したムーブメントの流れの中で加速し、同曲は国境を越えるレパートリーとなった。
有名な演奏・録音
代表的な録音として、Sérgio Mendes & Brasil ’66による英語版「Like a Lover」が挙げられる。このバージョンは同曲を世界市場へと押し上げ、以後、ジャズ/ポップ双方の歌手・奏者に広く取り上げられる契機となった。また、作曲者Dori Caymmi自身によるギター弾き語りやアンサンブルでの録音も要注目で、原作者ならではの和声感とフレージングの妙を確認できる。その他、多数のボサノヴァ/ジャズ系アーティストによるカバーが継続的に発表されている。映画やドラマでの具体的使用例は情報不明。
現代における評価と影響
今日、O cantadorはボサノヴァ/MPBとジャズの交差点に立つスタンダードとして評価され、ジャズ・ヴォーカルやラテン・ジャズのステージで定番的に演奏される。和声の豊かさと旋律の歌心は、アレンジャーにとって再解釈の余地が大きく、バラードからミディアム、器楽版からヴォーカルまで幅広く機能する点が支持の理由である。教育現場でも、ブラジリアン・グルーヴとジャズ・ハーモニーの学習素材として採用されることが多い。
まとめ
O cantadorは、ボサノヴァの詩情とジャズの洗練を併せ持つ名曲であり、時代や国境を越えて演奏され続けている。確かな作曲と普遍的なメロディ、柔軟な編成対応力により、今後もスタンダードとして歌い継がれていくだろう。初演年など一部詳細は情報不明だが、録音史と現場の定着度がその価値を雄弁に物語っている。