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From This Moment On
- 作曲: PORTER COLE

From This Moment On - 楽譜サンプル
From This Moment On|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「From This Moment On」は、Cole Porterが1950年に作詞作曲したポピュラー・ソングで、のちにジャズ・スタンダードとして定着した。もともとはミュージカル『Out of This World』のために書かれたが、初演前に曲順から外れ、1953年の映画『キス・ミー・ケイト』で再活用され広く知られるようになった。明快なメロディと言葉遊びに富む歌詞は、アメリカン・ソングブックを代表するポーター節の好例である。
音楽的特徴と演奏スタイル
曲は32小節AABA形式が基本。Aセクションは上行の跳躍と滑らかな順次進行が交互に現れ、ブリッジではセカンダリー・ドミナントやクロマチックな進行で緊張感を高める。多くの演奏で軽快なミディアム〜アップテンポのスウィングが採用されるが、ボサノヴァやバラードに再解釈される例も多い。ヴォーカルでは明瞭なディクションとリズムの後押しが鍵で、エンディングに半音上へ持ち上げるキーモジュレーションを加えるアレンジも定番だ。歌詞の主題は「今この瞬間からの揺るぎない誓い」を掲げ、前向きな決意をストレートに伝える。
歴史的背景
第二次大戦後のエンターテインメント産業が拡大する中、ブロードウェイとハリウッドの往還で曲の寿命を延ばした好例が本作である。舞台版での未使用にもかかわらず、映画版での華やかなダンス・ナンバーとしての採用が人気を押し上げ、以後はジャズ・クラブやラジオで定番化。ポーター晩年期の洗練された作風が、時代の明るいムードと結びつき普及した。
有名な演奏・録音
エラ・フィッツジェラルドは『Ella Fitzgerald Sings the Cole Porter Song Book』(1956)で洒脱な決定版を残した。フランク・シナトラも『A Swingin’ Affair!』(1957)でスウィンギーに取り上げ、以後の男性歌手のモデルとなった。映画『キス・ミー・ケイト』(1953)ではアンサンブル・ダンスとして披露され、映像作品を通じた普及に寄与。さらにダイアナ・クラールはアルバム『From This Moment On』(2006)でタイトル曲として現代的なビッグバンド・サウンドに刷新した。ピアノ・トリオやビッグバンド、ヴォーカルの各フォーマットで広く録音が存在する。
現代における評価と影響
今日でもセッションの常連曲であり、ジャズ・ヴォーカルのオーディションや音大の課題曲にも頻繁に選ばれる。移調のしやすさと和声設計の明快さが、学習用レパートリーとしての価値を高めている。配信時代においても再生され続け、世代を超えて新録が途切れない点は、スタンダードとしての生命力を物語る。
まとめ
舞台から映画へ、そしてジャズ・スタンダードへと広がった本作は、コール・ポーターの洗練を凝縮した一曲。明るい決意を描く歌詞と、演奏者の工夫を受け止める強固な構造が相まって、時代を超えて愛され続けている。初学者からベテランまで、表現力とアレンジの妙を試せる名曲だ。