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Gloria's Step
- 作曲: LAFARO SCOTT

Gloria's Step - 楽譜サンプル
Gloria's Step|楽曲の特徴と歴史
基本情報
「Gloria's Step」はベーシストのスコット・ラファロ作の器楽曲。ビル・エヴァンス・トリオが1961年6月25日、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで録音した演奏で広く知られる。歌詞は存在しない。主にピアノ・トリオで演奏され、現在はモダン・ジャズのスタンダードとして定着している。初出は同日の名高いライヴ・セッションから編まれたアルバム群に収められ、その後の再発や編集盤でも繰り返し紹介されてきた。
音楽的特徴と演奏スタイル
繊細な動機と跳躍が交錯する主題に、内省的で色彩豊かな和声が寄り添う。エヴァンス、ラファロ、モチアンは対等に会話し、ベースは伴奏にとどまらず旋律線を担う。中庸テンポで演奏されることが多く、ソロはモーダルと機能和声が柔軟に共存する。ダイナミクスの微細な変化や間合いのコントロールが重要で、各パートが互いの呼吸を聴き合うことで、楽曲の抒情性と緊張感が立ち上がる。
歴史的背景
この曲が収められたヴァンガード公演は、モダン・ジャズ史の金字塔。同セッション直後、ラファロは1961年7月に不慮の事故で急逝し、本曲は象徴的存在となった。彼が示した、ベースが和声・リズム・旋律の三役を横断する発想は、以後のトリオ像を大きく更新した。エヴァンスとモチアンの繊細な応答も相まって、作曲と即興の境界を溶かすアンサンブル美学が記録されている。
有名な演奏・録音
決定的資料は、同日の複数テイクを集成した『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』。以後、多くのトリオやベーシストがレパートリーに採り入れ、ライヴや録音で継続的に演奏。ギター・トリオやソロ・ベースなど多様な解釈も見られる。原曲の抒情性と構造的強度が高いため、テンポやアレンジを変えても説得力を保ち、各奏者の音楽観を反映させやすい点が支持されている。
現代における評価と影響
インタープレイを学ぶ教材として評価が高く、アンサンブルのダイナミクスや間合い、ボイスリーディングの研究例として取り上げられる。スタンダード曲集にも掲載され、セッション現場での通用度も高い。ラファロが体現したベースの役割拡張は、現代トリオの基準の一部となり、ピアノ・ベース・ドラムの三者が等価に物語るスタイルを根づかせた。
まとめ
「Gloria's Step」は、ラファロの先鋭的発想とエヴァンス・トリオの相互対話を体現する名曲。歌詞を持たない器楽曲ながら、繊細な抒情と緊密な会話性を兼備し、録音史的価値と実践的学習価値の双方を備える。半世紀を超えて演奏され続ける理由は、楽曲そのものの強度と、演奏者の創造性を引き出す懐の深さにある。