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I Won't Dance
- 作曲: KERN JEROME

I Won't Dance - 楽譜サンプル
I Won't Dance|楽曲の特徴と歴史
基本情報
『I Won't Dance』は、作曲家ジェローム・カーンによる1930年代の楽曲。原曲はロンドンの舞台『Three Sisters』(1934)向けに書かれ、のちに映画『Roberta』(1935)でドロシー・フィールズが歌詞を改稿。フレッド・アステアの歌唱で広く知られ、現在はジャズ・スタンダードとして定着している。作詞はオスカー・ハマースタインII、オットー・ハーバック、フィールズの連名でクレジットされることが多い。
音楽的特徴と演奏スタイル
形式は32小節のAABAが一般的。軽快なスウィングのビートに、跳躍音程とシンコペーションが映えるメロディが乗る。Aセクションは明快で、B(ブリッジ)では和声が転調感をともない流麗に展開。テンポは中速〜やや速めが標準で、ヴォーカルはウィットの利いた言葉運びを生かし、バースの前置きやブレイクを挟む解釈もよく聴かれる。
歴史的背景
1930年代のハリウッド黄金期、ダンス映画の全盛とともにミュージカル由来の楽曲がポピュラー化した潮流の中で本曲も浸透。映画『Roberta』でのアステアとジンジャー・ロジャースの共演によって注目を集め、以後は米国歌曲集の重要レパートリーとして歌い継がれてきた。舞台・映画の垣根を越え、ジャズの現場へ移植された典型例といえる。
有名な演奏・録音
初期の代表例は映画版でのフレッド・アステア。以降、エラ・フィッツジェラルドが『Jerome Kern Song Book』で格調高い解釈を示し、多くのシンガーやビッグバンドがレパートリーに採用。インストゥルメンタルでも取り上げられ、明快なAABA構成がソロ回しに適しているため、スモール・コンボから大編成まで幅広く親しまれている。
現代における評価と影響
今日ではジャズ教育用の教材やフェイクブックに収録され、セッションの定番曲として位置づけられることが多い。洒脱な歌詞は「踊らない」と宣言しつつも相手への強い魅了をユーモラスに描き、ステージでの演出効果も高い。映画音楽、ミュージカル、ジャズの架橋を示す代表曲として、世代を超えて演奏され続けている。
まとめ
『I Won't Dance』は、カーンの洗練された旋律と機知に富む歌詞が結びついた不朽のスタンダードである。スウィングの快感とヴォーカルの語り口の妙を一曲で味わえるため、鑑賞・演奏の双方で楽しみが尽きない。出自は舞台と映画に根ざしつつ、現在もジャズ・シーンで生き続ける稀有なナンバーだ。