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I'll Get By (As Long As I Have You)
- 作曲: AHLERT FRED E,TURK ROY

I'll Get By (As Long As I Have You) - 楽譜サンプル
「I'll Get By (As Long As I Have You)|楽曲の特徴と歴史」
基本情報
I'll Get By (As Long As I Have You) は、作曲フレッド・E・アラート、作詞ロイ・タークによる1928年発表のポピュラー・ソング。恋人の支えがあれば困難を乗り越えられるという普遍的なメッセージが核にあり、発表当初から多くの歌手に取り上げられてきた。後年はジャズのレパートリーでも定着し、いわゆる“スタンダード曲”として歌手・器楽奏者の双方に演奏され続けている。
音楽的特徴と演奏スタイル
典型的な32小節AABA形式のバラード。穏やかな旋律線と、ドミナントやセカンダリー・ドミナントを用いた円滑な和声進行が特徴で、歌詞の慰撫的な内容とよく呼応する。ヴォーカルはルバート気味のイントロから中庸テンポのスイングへ移行する解釈が定番で、コンボではブラシ・ドラムとウォーキング・ベースが柔らかい推進力を担う。間奏でのテナーサックスやトランペットのリリカルなソロも映え、終結はフェルマータで静かに収める編曲が多い。
歴史的背景
曲はティン・パン・アレー最盛期の1928年に出版。大恐慌前夜に生まれ、慰めと希望を歌う内容は後の時代にも共感を呼んだ。とりわけ第二次世界大戦期、戦時下の不安と離別の感情に寄り添う歌として再評価される。1942〜44年の米国音楽家組合の録音ストの影響で旧録音が再流通し、1940年代半ばに本曲が再び大きな注目を集めたことは重要なトピックである。
有名な演奏・録音
1920年代末にはルース・エッティングが取り上げ、スタンダード化の端緒を開いた。1937年のビリー・ホリデイ(テディ・ウィルソン楽団との名演で知られる)は、切実な語り口で本曲の可能性を拡張。ハリー・ジェイムズ楽団の録音は1941年のテイクが戦時期に再ヒットし、広範な人気を決定づけた。1950年代にはコニー・フランシスも録音し、ポップ・フィールドでの命脈を保った。いずれも解釈の幅広さを示す代表例である。
現代における評価と影響
現在も『偉大なアメリカ歌曲集』系の重要曲として、ヴォーカルのスタンダード教材やセッション曲目に定着。キーやテンポの可変性、内省から高揚まで幅を持つ表現力が重宝される。ビッグバンドからピアノ・トリオまで編成を選ばず、ジャズとポップの境界を橋渡しするレパートリーとして紹介されることが多い。配信時代でも往年の名演が聴かれ、解釈比較の対象として研究価値が高い。
まとめ
I'll Get By は、端正なAABA構成と慰めに満ちたメッセージ性で時代を超えて愛される一曲。戦前のポピュラーから戦時期、そして現代のジャズ・スタンダードへと活躍の場を広げ、名歌手・名楽団による多様な解釈を生んだ。歌詞の核心は“あなたさえいれば大丈夫”という揺るがぬ肯定であり、その普遍性こそが長寿命の理由である。入門にも再発見にも最適な、奥行きある名曲と言える。