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I'm Through With Love

  • 作曲: KAHN GUS,LIVINGSTON JOSEPH A,MALNECK MATT
#スタンダードジャズ
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I'm Through With Love - 楽譜サンプル

I'm Through With Love|楽曲の特徴と歴史

基本情報

1931年に発表された「I'm Through With Love」は、作詞をGus Kahn、作曲をMatt MalneckとJoseph A. “Fud” Livingstonが担ったジャズ・スタンダード。別れの痛手から“恋はもうたくさんだ”と静かに宣言するバラードとして知られ、1959年の映画『お熱いのがお好き(Some Like It Hot)』でマリリン・モンローが劇中歌唱したことで一般層にも広く浸透した。初演者や初出の舞台、出版元の詳細は情報不明だが、以降多くの歌手・器楽奏者にレパートリーとして定着している。

音楽的特徴と演奏スタイル

多くの演奏で32小節のAABA形式をとるスロウ〜ミディアム・バラード。導入にルバートを用いて語り口を作り、拍に乗せて本編へ移る流れが定番化している。和声はii–V進行や半音階的な下降を含み、終止にかけて余韻を残す設計が感傷的な歌詞とよく噛み合う。ヴォーカルではブレス位置と語尾処理、弱声域でのピッチ・コントロールが重要。器楽ではミュート・トランペットや柔らかなテナー・サックスが相性良く、シンプルな伴奏でも内声の動きとダイナミクス設計で情感を描ける。テンポは遅めが一般的だが、ミディアムでの軽いスウィング解釈も行われる。

歴史的背景

作曲者のマット・マレネックはダンス・オーケストラやバンドで活躍し、フッド(ジョセフ A.)リヴィングストンはスウィング草創期のリード奏者/編曲家として知られる。作詞家ガス・カーンはアメリカン・ソングブックを代表する存在で、平易な語彙で複雑な情感を描く手腕に長けていた。本曲もその流れに連なる一編で、1930年代のポピュラー/ジャズ・バラードの中核レパートリーとして扱われてきた。初出に関する詳細な記録は情報不明。

有名な演奏・録音

映画『お熱いのがお好き』(1959)でのマリリン・モンローの歌唱は、楽曲の知名度を決定づけた代表例。ジャズではビリー・ホリデイが1930年代にしっとりとした解釈で録音し、後年にはチェット・ベイカーが繊細なヴォーカルとトランペットで名演を残している。いずれもテンポ設定や間合い、ハーモニーの捉え方が異なり、同曲の解釈の幅広さを示す好例である。

現代における評価と影響

現在もボーカルのリサイタル、ジャズ・コンボ、スタンダード特集のライブで定番入り。AABAの明快な骨格と感情表現の余地が大きいため、フレージングやブレス、ダイナミクスを学ぶ教材としても重宝される。キーやテンポの可塑性が高く、ピアノ伴奏のデュオからフル・オーケストラまで編成を選ばない点も評価され、配信時代でも安定した再演頻度を保っている。

まとめ

「I'm Through With Love」は、端正な旋律と普遍的な失恋の語りが結びついたジャズ・バラードの名曲である。来歴の一部に情報不明な点は残るものの、映画での名唱と数多の録音が価値を裏づけ、世代を超えて歌い継がれてきた。初学者は映画版から、深掘り派はホリデイやベイカーの録音を聴き比べると、同曲の解釈の奥行きを実感できるだろう。